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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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志摩誕祝いだったはずが、あれ?今、8月??…ふっ。
聖域の無配、志摩雪+兄さん。
短時間仕上げだったので本当は加筆して載せる予定だったのですが、何を加筆しようと思ってたのか忘れたのでそのまま。
高校3年設定「春までは、まだ。」⇒大学1年設定「コンビニおでん」⇒大学4年設定「これからもずっと、君と」となんとなく続いて、ついに今回は社会人編。
捏造甚だしいです。既に熟年夫婦。何でも許せる方に。
 



*君といつまで*


主役の性格を現しているような、昔ながらのいい結婚式だった。
大学卒業間際に付き合い出したという二人は、勤め出してようやく一年と少しという初夏、目出度く入籍を果たした。
その、子猫丸の早すぎるとも言える結婚に、明陀中の人間が集まった。
二次会はレストランではスペースが足らず、二百人は入る会議室を借りた。
それでも満員御礼の大騒ぎだ。
厳かだった結婚式・披露宴に比べ、二次会はお祭り好きの面々により、飲んで歌って踊ってカーニバルのお祭り騒ぎだった。
そして、駆けつけた旧祓魔塾生の面々に、花嫁を置いて涙ぐむ子猫丸。勝呂に「幸せにな」と言われたのを皮切りに本格的に涙した子猫丸が、同い年の新妻に宥められるのを散々からかった後、志摩は久々に集まった旧塾生メンバーと飲み直していた。
会うのは一年以上ぶりの者も居るのに、久しぶりの気がしない。青春時代を共に過ごした面々とは、離れていた時間も距離も関係なく、会話に花が咲いた。
今では朴以外は全員が前線で活躍する祓魔師で、極稀にだが任務先で顔を合わせることもある。それでもこうして全員が集まることは珍しく、あっという間に時間が過ぎた。
三次会ともなると、さすがに学生の頃とは違って明日の仕事を控えて人数は減った。
そして夜の11時も過ぎた今、まだ残っているのは、志摩の他には、一足先に帰ろうという所を無理矢理捕まえた雪男と、未だに志摩と雪男を二人きりにさせまいと画策する燐だけだ。
しょっちゅう京都の志摩と雪男の暮らす部屋に訪れる燐とは、卒業後も頻繁に会ってはいるものの、いつもは家で会うので、この三人で外で飲んでいるというのは何だか珍しい。
仲の良い双子が相も変わらずぎゃいぎゃいと言い合うのを横目に、志摩は手元の日本酒をちろりと舐めた。
極端に減った人数と過ぎた酒にだろうか。幼馴染が結婚してしまうというのは喜ばしいと同時に、案外に寂しいものだなと、しんみりとしてしまって、手元の酒を見やる。
変わらないものなんてないと理解していたつもりだったのに、なんだか置いていかれたような気持ちだ。
「志摩くん?」
「ふえっ」
一人物思いに耽っていたら、急に雪男のアップが目の前にあって変な声が出た。手に持った杯から、危うく酒が零れるのを何とかバランスを取り、はっと見つめた先には雪男しか居ない。いつの間にか燐は席を離れていたらしい。常になく大人しくしている志摩に、雪男が飲みすぎた?と尋ねてきて、ぱちぱち瞬く瞳が近くて心臓が跳ねた。
心配そうに覗き込む碧が潤んでいる。自分よりずっと酒に弱い雪男こそ今日はたぶん飲みすぎで、若干舌っ足らずな問いかけに、湿った瞳と唇にどきりとする。居酒屋の個室の少し暗すぎる落ち着いた照明が、長い睫毛の影を色濃く雪男の頬に落としていた。小さく震えるそれに、普段外でなんて晒されることのない無防備な姿に、自然と手が伸びる。
「ゆき」
指の腹でそっと目元を撫でる。触れた頬が、ほうと吐かれた息が熱くて、きゅうと心臓が締め付けられた。
どうしたの?と、声にされずとも、優しく撓む視線が柔らかく問いかけてくる。ことりと手のひらに頬を預けてきた雪男が瞳を閉じて、志摩くんの手冷たくて気持ちいい、とうっとりと呟く様に、胸がぎゅんとなった。

…好き、や。

変わっていくものの中で、いつまで経ってもこれだけは変わらない想い。
「なぁ」
「志摩…くん?」
伸ばした手に意図して力を込めると、僅かにいぶかしむ声。ゆるりと開かれた翡翠の瞳に照明が反射する。珍しいグリーンの虹彩は、今はまるで夏の日差しに煌く湖面のようだ。その時その時で違った煌きを見せる瞳に、きっと、自分は一生見飽きることなんてないんだろうなと思う。
一緒に暮らしてほぼ毎日見ているはずのその顔も、もっとずっと、いつまでだって見ていたい。

…全然足りひん。

もっと、と顔を寄せる。驚いたようにぱたぱたと瞬いた瞳は、次には仕方ないなぁとでも言わんばかりに細められて、すいと近づくのを拒まない。そのことに、ふうと心が軽くなった。
志摩に乾きを自覚させるのも雪男だが、満たすものもまた雪男だった。
これだけあればいい。雪男が居れば…―――

「いい度胸じゃねぇか」

「むぐ」
唇に触れるかというところで、節くれ立った指が邪魔をした。予想した柔らかさではなくごつごつした感触に触れた唇が、想定よりはやく何かにぶつかって反射的に離れる。
「お、奥村くん」
そろりと見上げた先には、雪男の唇をその手で覆い、青筋を立てた悪魔が居た。ゆらり、と制御しきれなかったらしい焔が漏れ出ている。
完全にその存在を失念していた志摩は、しまったと心の中で頭を抱えた。既に見慣れた青い焔など怖くもないが、ひくひくと痙攣する口端に、こら今日は泊まって行くと言われかねんわ、と肩を落とす。
「にいさん、お会計済んだの?」
席を離れていた燐は、どうやら会計を済ませてきたらしい。
「おう。もうすぐ閉店の時間だってさ」
「そう」
「んじゃー帰るわ」
予想外にすんなりと帰宅を告げた燐に、志摩が面食らっていると、またな、と言って本当に帰るらしい燐が雪男から離れた。
明日も祓魔の任務があるのだという燐に、帰宅の距離など関係ない便利な『鍵』はあるもののさすがにもう日付が変わるというところでようやくお開きになった会は、燐の一言で締めとなった。


「結局アレだよな。結婚とかさ、約束なんて儚いものにすがらないと、人間生きていけないんだよな」


思いっきり志摩を見ての台詞。
今では燐にオープンな志摩と雪男の二人の仲。最初の頃はどうにかして離れさせようという裏がありありと感じられたが、最近では滅多に触れてこなかったのに。
昔から雪男贔屓の燐のことだ。
意図があっての事ではと勘ぐる前に、志摩は痛いところをつかれた気分だった。





*****





子猫丸の結婚式以来、志摩は考え込んでいた。
今、志摩は大学を卒業して京都出張所勤め、雪男は現在研修医と、異なる道を進んでいるが、今も二人の同居は続いている。
志摩の卒業を期に広めの家へ引越し、という雪男側の条件で、二人で探して選んだ家に移り住んでもうすぐ二年。
あの時。これから先の人生を共に歩むつもりで雪男が応えてくれたのは間違いない。…と思う。
雪男を信じていないわけではないが、それは結局はただの口約束でしかない。
一緒に暮らし始めてもう五年。
男女であれば、結婚を意識しておかしくない段階のはずだ。だが、結婚だとか、法的な形で将来の約束をすることのできない自分たち。
一度目は、高校卒業後の同居を押し切った時。
二度目は、大学卒業後も一緒に暮らすことを持ちかけた時。
そして今、
「ないと駄目やとは思わんけど…。やっぱ。欲しいよなぁ、’約束’」
志摩にとって、三度目の人生の岐路だった。










「俺、今日が誕生日なんや」

テーブルを挟んで二人で囲んだ夕飯の後、食後のデザートを前に、志摩は真剣な面持ちで雪男に告げた。
学業にバイトに祓魔にと、忙しかった大学時代に比べて、祓魔師専業となった今の方がまだ規則的な生活を送っているため、相手が悪魔という職業柄どうしても例外はあるが、時間が許す限りは二人で夕食を摂っている。
懸念したイレギュラーもなく、予定通り二人で囲むことのできた今日の食卓。
今日の夕飯は雪男が調理当番で、志摩の好きな和食中心のメニューだった。ちゃんと出汁から取ったらしい手間の掛かかった料理たちは文句なしに美味しかった。
高校時代の雪男の料理のセンスはそれは壊滅的なものだったが、元々要領のいい雪男は、今ではレシピさえ見れば一通りのものは作れるらしく、今日初めて出されたあつあつの手作り豆腐がまた絶品だった。
常より豪華だった食卓は、志摩が告げなくても今日が『特別な日』だと示していて、雪男はうんそうだね、と言って首を傾げた。
「言われなくても知っているよ。だからこうして、食後にケーキを食べているんだけど?」
雪男が不本意そうにケーキを小突く。
甘いものは本来得意ではない雪男だったが、「こういうのは雰囲気が大事やろ!」という志摩の言葉に、毎年一緒にケーキを食べている。
志摩の前に置かれた皿の、小さな円形を半分より若干大きめにカットされたケーキに乗ったチョコプレートには、「れんぞうくんおたんじょうびおめでとう」と全部平仮名で書いてあって、どんな顔をしてこれを頼んだのだろうと想像してにやけたのはつい一時間ほど前のことだ。
こういう些細な事一つとっても、俺って愛されてるんやな、なんて、志摩はこれから言うことに少しの自信を追加する。
「うん、せやから」
す、と隠し持っていたものをテーブルに置いた。
「これ、貰ってくれへん?」
「…………」
二人の間には、小箱が一つ。
「…何で僕が貰うの」
特に包装されていない小箱を、雪男がぱかりと開ける。
そこには、
「……指輪、だね」
「指輪や」
箱の中には、シンプルなリングが一つ。
「俺ら結婚できるわけでもないし、万人に祝福される立場やない。せやけど俺には雪しか居らんし、これからもずっと雪だけや」
結婚は出来ないけれど。
周囲におおっぴらには二人の関係を言えないのも仕方ないけれど。
雪男を縛るものが欲しいと思った。
「だから、それ。俺へのプレゼントてことで、左手の薬指に着けて?」 
戸籍上の伴侶はお互いに空席だけれど。
「雪はもう’誰か’のパートナーなんやて事をちゃんと世間に示して、付け入る隙なんてないて、主張して欲しい」
これから先の雪の時間は、全部俺のものなんやて。
目に見える形で示して欲しい。
世間的には婚姻届(紙切れ)一枚ほどの効力もない約束だけど。

「…それは、難題だな」

一見否定的な台詞を吐きつつ、雪男が小箱から指輪を取り出す。
きらりと光を反射した指輪を、まるで鑑定するかのようにしげしげと見つめると、雪男はすいと視線を志摩に流す。
「まるでプロポーズだ」
うすく笑みを浮かべる雪男は、挑戦的な目だ。
まるで志摩からどんな切り返しがくるのかと、楽しんでいるかのよう。
「そのつもりやけど?」
負けじと不敵な笑いを浮かべ、志摩はひょい、と雪男の手から指輪を奪う。
え、と驚いて瞳を見開いた雪男の左手をそのまま引っ張ると、薬指に指輪を収めてしまった。
「……っ」
体勢を崩す雪男を余所に、志摩は指輪を嵌めたその指に口付ける。びくりと雪男の肩が、瞳が揺れて、あと一押し、とばかりに志摩は熱い視線を送った。
「毎日着けてて言うてるわけやない。けど、できるだけ着けとってくれたら嬉しい」
とどめ、とばかりに志摩がお願い光線を出す。
雪男が案外、志摩のお願いに弱いと知っているので。
「…………」
雪男は、ぴたりと薬指に納まった指輪を一撫でする。緩くもきつくもないその納まりの良さに、ふふ、と自然と笑みが湧き出た。
「…僕も焼きが回ったな」
溜め息とともに吐き出された台詞は、否定とも肯定とも取れないものだったが。
雪男が空になった箱を閉めて、掌に納める。
「幸せにしてくれる?」
「当然!」


「「二人で幸せになろう」」


重なった台詞に、二人は声を上げて笑った。

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