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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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すごい間が空いて…すみません、覚えている人居るのかなw
志摩雪エセファンタジー長編です。
今回は燐のお話。
金兄とかシュラとかしえみとか出てきてもうどんどん広がっていくw
いつ終わるんだw
次こそ志摩雪です!



9.落胤


「っくしゅん!」

盛大にくしゃみをして、金造は自身の腕を抱いた。
「うー、もう春やのにこの国寒すぎや!」
母国である京の国の冬も寒いが、ここはそれに輪を掛けて気温が低い。湿度が低いためかさらに寒さが身に染みる。特に明け方と陽の落ちた後は4月に入ったというのに手足が震えるほどだ。
未だに蕾すら膨らんでいない桜を見やって、はやくあれが咲くくらい暖かくならないだろうかと思う。
むしろ早く母国へ帰りたいのだが、と思いを馳せるが、残念ながら任期がはっきりと決まっている仕事ではない。いつになるかもわからない帰国に溜め息を落とす。
あの日以来、金造始め京の国の軍人が数十人はここかの国に残っていた。
既に調印も終わり表向きこの国は京の国の同盟国。けれど、実際は侵略したも同然だ。
しばらくは妙な動きがないか監視するためにと残った部隊の中、部隊長として若い王の監視の役を任されている金造だが、そもそもが監視など意味があるのか、と思う。
この国には軍備どころか戦う意思もなく、その大人しさはいっそ気持ち悪いくらいだ。
監視対象である当の王―――奥村燐も、ここ数日王城の一室に閉じこもって出てこないため、金造は日々扉とにらめっこ状態だ。
見たところ燐はまだほんの少年で、京の国座主である竜士も同じ年であるし実際成人は迎えているのだが、それにしては幼い印象であった。
感情の起伏も激しく、弟を人質同然に取られると知った時の激昂ぶりといったらなかった。むしろ一人他国に赴く雪男の方が冷静に燐を宥めていた姿を思い出し、金造はせめて、と思う。
「柔兄、雪男を置いてってくれればよかったんに」
監視対象が雪男であれば、こんな退屈な日々ではなかっただろうに。
金造と雪男は学園時代一時は同じ教室で学んでいたこともあり、子供好きの柔造と一緒になってよく構っていた。しばらく会っていなかった雪男が金造よりも背丈が高くなっていたのには年月を感じたが、大きな瞳は相変わらずだったなあと思い返す。
ろくに会話をする間もなく旅立った雪男はすんなりと伸びた背中をしゃんと伸ばして、あの頃と変わらない穏やかな瞳をしていた。

『兄さんを…国を守るために、強くなりたい』

あまりにも勉強熱心な子供だった雪男に、子供は遊ぶことを考えてればええんや、と心配を隠して告げた金造に返ってきた返答は、そんな子供らしくない回答だったことを思い出す。
きっと今もその気持ちに変わりはないのだろう。
金造の末弟と同じ年の小さな子供が抱えるものに、少しでもと思って共に過ごした日々。
守れるとええな。そんな軽い言葉をあの日の雪男に掛けた己が、まさかこんな形で再開を果たさなければならないとは思っていなかった。
怨まれていやしないだろうかと少しだけ心配になって、まあ仕事だ仕方ないとその考えは放棄した。
それよりも。

…この茶番の裏はなんなんやろなあ。

子供の頃から見知っている竜士の真意は、金造とてある程度はわかっているつもりだ。
抵抗の意思のないこの国を、監視という名目で、たぶん、

…守ってるんや。

そう遠くない未来にどこかの国が侵略するであろうことはわかっていたが、この国を取り囲む危うい均整はけれどまだ崩れてはいなかった。即位後すぐに決断した竜士が、どうしてそんなに事を急いでいたのかは知らない。けれど何らかの目的を持っての行動だということだけはわかる。卒業後も雪男を心配していた金造としては、どことも知れない国に侵略されるよりもこの結果でよかったのだとも思う。
しかし。
双子の『どちらか』を連れてこいと言って、けれど、『どちらでもいい』と言いながら迷っているような眼差しであった竜士を思い出す。
「坊が連れて帰って欲しかったんは、本当は…」
双子のどちらとも面識のある竜士だが、たぶん、きっと…―――。
柔造はどこまで気付いていて雪男を連れ帰ったのだろう、と金造は閉じた扉を再度見やった。


*****


一方、その扉の先では。

「ぬぉわっ!」
「ハイダメー」

頭の両横で人差し指を蝋燭の先端に向けていた燐が点るというよりも蝋燭の周囲にまで燃え広がった焔に慌てる横で、だらりと床に座って欠伸をかみ殺しながら霧隠シュラがダメ出しする。
石造りの部屋中に散らばる無数の残骸に、お前やる気あんのか?と冷たく落としたシュラが手元の袋を漁るが、すでに蝋燭は底を尽きていた。
はあと見せ付ける溜め息を吐いてシュラが立ち上がり、空の袋を大雑把に畳んで置き、次の麻袋を手にする。みっしりと蝋燭の入るその袋はそれなりの重さであるはずなのに、ひょいと片手で投げてよこされて燐がキャッチすればやはり両手が沈むほどの重量だった。両手で抱えても重たいそれに、軽々と投げて寄こすあの細い腕はどうなっているんだと燐は思う。
藤本獅郎亡き後、面倒だ面倒だと言いつつも長友や経堂など教会の面々と共に燐や雪男を支えてくれているシュラは燐の剣の師でもあり、剣を交えている時もその重たさに圧倒される。
自分がまだまだ未熟であることは理解しているつもりだ。一足飛びにはいかないことも。けれど。
「ほんとに、こんなんで焔が操れるようになるのかよ」
焦りばかりが募り、つい愚痴が出てしまう。
毎日毎日蝋燭を前に使い慣れない集中力ばかり使って、燐もそろそろ限界だった。
滅入る気持ちを何とか堪えているのは、獅郎の死後にふらりと現れたシュラに、燐が焔を操れない限りは弟を取り戻すことは出来ないと言われたからだった。
自分が死んだ後は息子を頼むと、そう獅郎に頼まれたのだというシュラはこの国の生まれではあるが国外で暮らしていたらしい。
初見時は「アタシは面倒事に首を突っ込むつもりはない。見に来ただけだ」と言い放ったシュラと燐は一揉めしたが、何だかよくわからないが燐の言葉に大笑いした後に結局は燐のに剣を教えると言ってくれた。
燐に宿る『焔』のことも獅郎から聞かされているらしいシュラは、力を持て余す燐に焔の制御も出来るようにと今の修行の提案(というより強制だったが)もしてくれたわけなのだが。
「多分な」
「多分て!」
こんな苦労して多分?!と目を剥く燐に、にゃははーと笑ったシュラがぴょこぴょこと跳ねながら扉へと向かった。
「ま、とにかく」
振り向かないままに続けられる声は、高い天井に冷たくこだまする。

「お前が焔を操れなければ、『真実の王とは認められない』んだ」

精々頑張れと去り際に落とされた言葉に、返事をする前に扉は閉じた。
「…わかってる」
それは獅郎の生前にも何度と無く言われた言葉だった。
けれど獅郎が燐に明かさなかった『焔』についての情報も何か知っているらしいシュラの言葉の裏には更なる『何か』が含まれているようで。燐は重たくなった空気にじっと床を見つめ、自分が焔を操れていれば、あるいは今もここに居たかもしれない養父を思い出す。
目の前で果てた養父が最後に明かした真実は、燐の心に波紋を広げたままだ。


―――燐、お前は…ユリと『青焔神(サタン)』との間に生まれた禁忌の落胤(こ)だ。


本来青い焔は『神の力』であって、この国の王族に『受け継がれる力』ではなかったという。王族は代々神官として青い焔を司る『青焔神』に遣え、その力を制御する存在であったのだと打ち明けた養父。けれど、前神官である燐の母親ユリと青焔神の間に生まれた燐は、青い焔を継いでいた。
そして、燐と雪男が生まれ、ユリが死んだその瞬間、この国を守っていた青焔神の力は消えてしまったというのだ。
燐と雪男が青焔神の子供だということ、燐が青い焔を継いでいることは、獅郎やごく一部の人間のみが知る事実だ。
国を守っていた青い焔が消えてしまったことを、父親の知れない燐と雪男にユリが神の怒りを買うような不貞を働いた結果だと、その責任を取るべきだと罵る大人も居た。
そんな大人たちの言葉に、平和だった国に、着々と他国からの圧力が掛かっているのは燐も知っていた。
だから。長くこの国を守ってきた『青い焔』を自分が継いでいると知った燐は、自身が犠牲になるだけで守ることが出来るのならばそれでいいと思った。
なのに、

―――神も人間も関係ねぇ。お前はお前の生きたいように生きろ。

血を吐きながら、それでもにかりと笑って燐を見た彼は、最後の最後まで『父親』だった。
突きつけられた運命に、けれど自由に生きろと、燐のことを守った獅郎。

…だけど俺は、この力から…運命から逃げない。

獅郎の願いとは裏腹に燐は決めていた。
自分が、自分だけが、この焔を操ることができるのだから。
じっと目の前の蝋燭を見る。
ひとつゆったりと瞬いた先の蝋燭は、真ん中を除いた両端に焔が点っていた。

「…やれる」

ぽつり、呟いた燐の青い瞳の中央には、太陽のような赤。
炎に照らされたその顔には、まるで表情が無かった。

「燐?」

じっと炎を見つめていた燐は、はっと声のした方を見た。
「おう、しえみ」
いつもの明るさを装って声のした方を見れば、今大丈夫?と遠慮がちに入ってきたのは杜山しえみ。燐や雪男とは同い年で、雪男の幼馴染みだ。
幼い頃外を跳ね回っていた燐と違い雪男やしえみは病弱で篭もりがちで、獅郎について薬草を取りに行ったフツマヤで知り合い話をするようになったのだという。対して燐としえみが知り合ったのは燐と雪男が正十字から戻ってきてからだが、燐に対して雪男の兄という安心感を持ったらしいしえみに、あっという間に二人は仲良くなった。
幼い頃は身体が弱くて学校に通えなかったしえみと正十字を途中で退学してしまった燐は、よく二人で雪男に勉強を教わったものだ。それはそう遠い日のことではないのに、もう随分と前のことのように思えた。
「お疲れさま。差し入れにクッキー作ってきたんだ」
「ありがとうな」
物思いに耽っていると差し出された可愛らしい包みの中にあったのは、淡色の包みとは対照的に黒に近い塊。それをひとつ頬張ればザリリとした食感と、そして想定していた苦みが口に広がった。薬草を扱う家系に生まれたしえみは何を作るにも薬草を入れる。
そんなしえみのクッキーは趣向品としての機能は果たさないが、どうやらその時々の体調を気遣った配合をしてくれているらしい。今回はどうやらアシタバとイカリソウ…そしてドライフルーツの代わりかクコの実が入っていて、不思議な食感を形成していた。
美味しいとはいい難いそれを、同じく薬草類を扱う雪男は平然と食べていたが、燐はいつまで経っても慣れない。「あ、これネズミモチが入っていますね」「そう!最近雪ちゃんが体調を崩しているって聞いたから」とそんな会話をする横からひょいと一つ取って初めて食べた時には、「苦っ!これ食いモンなのか?!」と顔をしかめた。「大丈夫。身体に害はないし、むしろこの薬草は熱を入れた方が腸内で吸収されやすくなるから」なんて、明らかにおやつを食べながらする話ではない言葉が返されたのはいつのことだったか。
そんなことを思い出していると、
「雪ちゃん、元気かなあ」
ぽつりと落とされた言葉に、ん、と風に耳を澄ませた。
「風精(シルフ)は異常を知らせてないだろ?」
「うん。…でも、やっぱり心配」
心と身体の弱かったしえみは雪男に懐いている。しえみより少し先に虚弱体質から抜け出した雪男は、自分も昔抱えていた同じ苦しみを少しでも軽減してやろうとよくしえみに会いに行ってやっていたのだという。
友達というのもあるが、あんな風に強くて優しい人になりたいと、雪男に憧れているのだと言っていたしえみ。
元々心根の優しい少女であるが、心配を募らせた表情で俯くのに、燐はそっと打ち明ける。
「…しえみにだけ教えるけど、俺、雪男を迎えに行くことにした」
「え、でも、京の国って遠いんでしょ?」
「大丈夫!これがある!」
じゃらり、と燐が重たい音を響かせる束を取り出した。
「鍵、の束?」
「仕組みはわからないけど、どこにでも行ける鍵だ」
それは以前、獅郎が使っていた『鍵』だった。
どういった仕組みになっているのかは全く不明だったが、それを差し込むと扉が知らない土地に繋がる。獅郎が使っているのを何度が見たことがある燐は、見知らぬその土地に連れて行って欲しいとねだったものだ。
その度、苦い笑みを浮かべてぽふりと燐の頭を撫でるばかりだった獅郎は、今にして思えば外交のために奔走していたのだ。一つ一つ鍵の繋がる先を確認しながら、今は亡き養父を思う。
自分たちを、この国を、ずっと守ってくれていた獅郎。

…今度は俺が守るよ。この国も、雪男も。

そのための力が自分にはある。
ちらと横目に見た燃え続ける二本の蝋燭に、出来る、と心で唱えた。

「これは誰にも秘密だ。シュラや長友たちにバレないように協力して欲しいんだ」

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