長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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最近大人志摩雪ばかりだったので、サルベージ品で久々に高校生の付き合っている志摩雪。
*夏の思い出*
「暑い!!」 からりと晴れた空に、雪男の声がこだまする。 そんな叫びも、雪男の上げたものだというだけで、志摩には耳障りのいいものでしかない。 もっと、と擦り寄ると、思い切り蹴飛ばされた。 「ったー」 ちっとも痛くはなかったが、打った背中を擦りながら、志摩は恨みがましく雪男を見上げた。 「ちょお。乱暴ですやん」 「うるさい! 暑いんですよ! やたらとくっつかないで下さい!!」 今、志摩が訪れている雪男の部屋―――旧男子寮には、冷房器具は扇風機しかない。その唯一の機器も、こう暑い中では生暖かい風が当たるだけでそう涼しくはならなず、無いよりマシ、といった程度だ。 そんなこんなで真昼間の室温は、優に体温を越えているかもしれない。 その中ベタベタとくっついてくる志摩に、暑さも相まって雪男は切れぎみだった。 「暑い言うたかて、せんせ仕事ん時はこの程度ならあのコート着とっても汗一つかいとらんやないですか」 こんな風に二人きりで過ごす時間が取れることは珍しく、この機会にと隙あらばと雪男を補充することに余念のない志摩がにじり寄るのに、手を伸ばしても触れられない距離に避難した雪男を見て、少し拗ねながら志摩がごちる。 「今は任務中じゃありません。プライベートな時間です」 きっぱり言い切った雪男は、扇風機も強で回っているのに、更に団扇で自分を扇いでいた。 首元を広げて風を送り、ふうと息を吐くその首筋をつと汗が伝った。 教壇に立っているときや課外実習引率時、学園で外向けに見せる『完璧超人です』といったさわやかな笑顔と違い、どこか無防備なその様に、それを見せてくれることに、志摩はまた頬を緩ませる。 「暑いのが嫌なら、次の休日は俺の部屋にしましょうよ」 新館ならばっちり空調ありますえ。 暑いのが苦手なら、と思って提案してみると、雪男はきょとんと見返してくる。 「別に夏の暑さは嫌いじゃないですよ?」 暑くなければ夏じゃないでしょう? そう言ってことりと小首を傾げる雪男の可愛さに、志摩はぐらりとする。 …何してても可愛えなぁ。 身長180cmの男、しかも美しく整ってはいるがあくまで男顔の雪男に向かって可愛いも何もないのだが、志摩にとっては可愛くて可愛くて仕方なかった。 何せ志摩が押して押して、面倒くさいのが嫌いな自分がそれを押しても揉めに揉めた上でようやく手に入れた恋人だ。 十数年とまだ短い人生の中とはいえ、生まれて初めて本気で惚れ込んだ相手なのだ。 それに今の表情は、志摩の心の『若先生アルバム』(本当は写真に収めたいのだが雪男が写真を嫌がるので心の中に収めている)の上位作品ものだった。 寝ても覚めても雪男の事ばかり考えている志摩は、ほうっと幸せ色の溜め息を吐いた。 しかし。 ひっかかる点が、一つ。 「…夏が暑いのはええのに、俺がくっついて暑いのはダメなん?」 「当たり前のこと聞かないで下さい」 「…………」 つまり。 夏の暑さは嫌いではない。 でも志摩がひっついて暑いのは嫌、と。 「…わ、」 「?」 「わかせんせぇええ!!」 「なっんですか?!」 裏返った声で瞬時に隣に来た志摩に、雪男も負けないくらいの裏声で答える。 「おぉおお俺なんかしました?! したなら無意識です、ごめんなさい!!」 「は?」 手を取ってにじり寄る志摩。切迫した空気の理由が雪男にはわからない。 「だって、俺がくっつくの嫌なんやろ?」 「はぁ。それは、暑いですから」 だから手を離してください、と言おうと思ったところに、 「夏は暑くても好きやのに、俺は暑いから嫌なん?!」 真剣な目で迫られて、雪男は止まった。 「なあ、」 どうなん? と伺う志摩。 「な、若せん…」 「…ぷっ」 志摩の言葉を遮って、こらえ切れなかった雪男の笑い声が響いた。 「はっ、あはははははは」 だんだんっ、と雪男が机を叩く。 「なんです、志摩くん、夏に嫉妬してるんですか?」 「…ハイ」 「ぅくっ」 素直に答える志摩に、雪男はまた笑い出した。 ひーひーと、涙さえ浮かべながら雪男は笑い続ける。 「どーっせ俺は心の狭い男ですよーっだ」 ぷうっと頬を膨らませる様は、とても幼い。 少し上気した頬に、志摩が本気で拗ねているのがわかって、雪男は必死に笑いを飲み込んだ。 「ねぇ、志摩くん」 「…なん?」 まだ少し笑いの残る声で呼びかければ、素直に返事をする志摩。 どんなに拗ねていても、雪男を無視しようとは思いもしないだろう志摩に、雪男はさっきとは違う笑みを浮かべた。 「志摩くんのことが嫌なわけじゃないんですよ。それにね、夏が好きって言うのは、夏は暑いですけど、だからこそ楽しめることもあるじゃないですか」 言い聞かせるように言えば、おとなしく聞き入る志摩。 「夕涼みも、スイカも素麺も、…あっついって文句言うのも。そんなのをね、志摩くんと楽しみたいです」 夏だけじゃないですけどね。言って雪男が微笑めば、志摩の頬のふくらみは緩和されていた。 「…好きです、若先生」 「知ってますよ」 こんな簡単に機嫌直りますもんね、とは心の中だけで呟いて、雪男は立ち上がった。 「あー、あっつい。では、夏の楽しみ第一弾、いきますよ」 「へ?」 「そろそろお昼ですからね。今日は素麺にしましょう?」 「おん!」 具は何にしますかねー、といそいそとついてきた志摩に、横で鍋に水を張りながら雪男はまた笑いを堪えた。 PR |
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プロフィール
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kao
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非公開
職業:
秘書ときどき旅人
自己紹介:
PH・青祓・幽白・炎ミラ・その他ジャンルいろいろ。
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