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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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エセファンタジーの続き。
進めたいところまで進まなかった・・・。
次こそ兄さんが・・・!(何度目だオイ)
兄さんのところまでちゃんと書き進んではいるんです・・・!



8.泡沫の日々



「こら驚いたわ」

今後の傾向と対策を練っていた雪男の耳に、来訪者の声が響く。
「柔造さん…」
「雪男、よお化けよったなあ」
数日ぶりに会う柔造は、しげしげと上から下まで雪男を見てくる。
しかし志摩と違って含みの無い調子で、よお似合うてる、と言われ、雪男は逆に居たたまれなくて俯いた。
恥ずかしさに僅かに頬を上気させる雪男に、自分の時との反応の差に志摩は心中でううと唸る。以前から知り合いだという二人は何気に親しげで、志摩はむうと口を尖らせた。
「柔兄、仕事は?」
「今は昼休憩や」
収集つかなくなっとるやろから行って来いて坊に言われてな、と柔造の言う通りに正しく各々の思惑渦巻く状況の中、兄の登場に冷静さを取り戻した志摩とは反対に虎子が瞳を輝かせた。
「柔造、ちょおこっち来て雪ちゃんと並んでみて!」
ちょいちょいと手招きをして二人を並べると、
「きゃあv やっぱりお似合いやわあv」
悦に入った虎子にほらもっと寄ってと押され、満更でもなさそうにエスコートする兄と照れたように視線を揺らす雪男を見て益々志摩は面白くない。
「顔なら俺と柔兄そう変わらんのに」
「何言うとるん。柔造と廉造じゃ顔の締まりがちゃう」
「えぇええ」
「そうや。それにお前最近弛んどるやないか」
言いながら腹筋を叩かれ、その衝撃に志摩はうっと唸る。
「…鍛錬さぼっとるな」
「いやあ、はは」
じとりと責める視線を誤魔化すように、ちょうど今日からちゃんとやろ思うててん、と笑って後ろ頭を掻く。
軍務に就く人間として義務である、と日々の鍛錬を欠かさない(というかもうむしろ趣味なのではないかと思う変態レベルの)柔造からの視線は冷ややかだ。
「全く。今は軍務が免除されとる言うても、日々の鍛錬は基本やろ」
平素であれば上官でもある柔造にサボりがバレたことに志摩が言葉を濁していると、ふと何かに思い至った柔造がにやりと雪男を見た。
嫌な予感がして雪男が身を引くよりも前に、伸びてきた手がひょいと足を掬う。
「な…っ!」
「わっ、柔造さん!」
身長は雪男の方が高いのに、柔造は彼を軽々と片手で持ち上げてしまった。
「これっくらいも出来んのやったら、いざって言う時に守れへんやろ」
ほれ、と人一人抱えているとは思えない軽快さで見上げてくる柔造の腕の上に座る形になった雪男が、バランスを崩して柔造の首にしがみ付く。不安定さにぎゅっと一度閉じられた瞳がゆっくりと開かれた。縋っていた首から移動して肩に添えられた細く白い指がぎゅうと布地を掴む。持ち上げられていつもより高い位置から見下ろす雪男と、余裕の笑みの柔造の顔が近い。
それがとても絵になっていて、益々喜ぶ虎子と反比例して志摩の機嫌は急降下した。
「お、降ろして下さい…」
「ええやん。学園時代はよおこおして持ち上げとったなあ」
「いつの話ですか!」
「あんなちっさかったのになあ。背えも伸びて、えらい別嬪になりよって」
「……っ、柔造さん、顔、近い」
じゃれ合う二人を見ていると、ちりと胸が焦げる。


「柔兄、先生降ろして」


無意識のうちに出した声に篭もった棘に、志摩は自分の口を手で覆った。
や、せんせも降ろして言うてはるし、危ないやん、と尤もらしく言うが、しんと静まった空気に驚いたのかぱちぱちりと瞬く雪男の瞳を真っ直ぐ見れずに視線を逸らす。
「何やノリ悪いなあ」
持ち上げた時と同じようにするりと雪男を降ろすと、柔造は悪かったなあと雪男と志摩の頭をぽんと撫ぜた。
自分は何も悪くないのに場を収めるためには簡単に謝ってしまう。そんな姿も大人で、志摩は警戒心を更に募らせる。
…危険や。
なにせ柔造は天然のたらしなのだ。女性にえらくモテるこの兄は、確かに地位もあり外見や性格もいいが、何よりもその垂れ流している包容力で測らずとも人を虜にしてしまうのだ。
うううと唸って取り戻した雪男を柔造から遠ざけ、志摩は二人の間に自分の位置を陣取った。久しぶりに顔を合わせる子猫丸と話し始めた柔造と、少々距離があり話し難そうに雪男が二人に相槌を打つのを横目に聞く。
自分でも子供っぽいことをしているという自覚に志摩が周囲の会話に入れずに居ると、あらあらまあまあ、と虎子が堪えきれない笑いを漏らしていた。
「廉造。あんた、雪ちゃんにホの字やね」
こそりと落とされた言葉にびくりと視線を向ければ、にこり…というよりもにたぁとまるで悪巧みをするような何とも言えない表情とぶつかる。
「この虎子さんに任せとき!」
いや、虎子さん引っかき回さんといて、とは言えず、志摩は力なく笑って話題を変えた。
「な、なあ、そういえば、金兄はどないしとるん?」
そう話題を振れば、盆に盛ってあったりんごをがじりと豪快に齧っていた柔造は、頬張っていた果肉を飲み込んでから告げた。
「…あいつはかの国に居残り中や」
なんとなくワントーン低い声。しゃくり、とまたりんごを口に含んだ柔造がちらと雪男を見る。

…何や?

その顔に何か含みを感じて廉造が見やると、瞬き一つで柔造のそれはいつもの表情になった。
「久しぶりに雪男と一緒に遊ぶんやー、て張り切って言うてたから、金造悔しがっとるやろな!」
「遊ぶって…」
呆れる雪男が、まあ金造さんらしいですね、と落とした呟きに、先ほど感じた違和感などはすっかり志摩の頭から抜けた。
「ってか、金兄もせんせのこと知っとるん?!」
「おん。学園時代はわざわざ別棟まで押しかけてきて雪男を膝に乗っけとったなあ」
もー目に入れても痛ないよおな可愛がりっぷりやったで。
そう落とされた柔造の言葉に、志摩は青ざめる。
柔造も強敵ではあるが、この短い遣り取りの間で柔造は雪男へ何の含みも持っていないと志摩は思う。
けれど。

あかん!金兄はほんまにあかん!

悪く言えばしつこい、だが良く言えば情熱的と取れる金造のそれに絆されて落ちた女子を何人か知っている志摩は、かっと瞳を見開いた。
「若先生! 絆されたらあかんえ!」
「…な、何に?」
ものすごい剣幕で迫る志摩に驚いた雪男が身を後ろに引く。
きょとりと瞬く瞳に、勢いで迫ったもののどう説明したものかと志摩が思案していれば、にやりと撓む視線の先の二対の瞳。
「廉造、大変やねぇ」
「はっはっはっ、せいぜい気張りい」
「志摩さん、そうなんや…」
「ううぅー」
子猫丸にまで納得の表情で言われて志摩が唸る。
「なんだかよくわからないけど…」
唯一話の読めていない雪男は項垂れる志摩と笑う柔造・虎子を交互に見やるばかりだ。
そうして完全に周囲にはバレバレな志摩の気持ちに気付かない雪男がこれでいいのかな?と思うほどに和やかな午後が過ぎていった。
 

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プロフィール
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kao
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非公開
職業:
秘書ときどき旅人
自己紹介:
PH・青祓・幽白・炎ミラ・その他ジャンルいろいろ。
長年燻っている想いからその時々の、萌えの欠片を集めました。
更新は自由気まま。リンクは同人サイトに限りフリーです。貼るも剥がすもご自由に★
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