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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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エイプリールフール!!
酒飲んでる設定なので21歳くらいの未来捏造、で…事後です。
雪男乙女警報発令してるんで注意してください。
これじたいはじつはりさいくる。
今、続きのえろい感じの話を書いてる。どうした私。
正気に戻ってしまった場合、心の中にそっと仕舞い込みます。
 ⇒続き出来ました!次の記事、「これからの二人の夢を話そう(R18)」です。
 ⇒さらに続きです。「あなたとのこれからを(R15?)」



*冗談だなんて言わないで*



春の朝は心地良い。
ぬくぬくした布団は、ささやかだが幸せを感じさせてくれる。
まだ少し冬の冷たさを残した外気が、朝の日差しに暖まっていく。
ぽかぽかとした春の朝の温度は、浮かびかけた意識をまた遠のかせた。
寝起きよくいつもシャッキリ目覚める雪男でさえも、あと5分、と思ってしまうくらいに。
雪男の家の寝室に一つだけある小さな窓、閉じたカーテン越しに降る穏やかな日差しは、閉じた瞼の裏を赤く染めるが、不快な明るさではない。
…はずなのだが。
今日はいつもと勝手が違っていた。

…眩しい?

ぼんやりと目を開けると、頭上から煌々と降り注ぐ朝日に雪男は瞬いた。
自分の部屋は西向きで、今カーテンが全開だということを差し引いても、朝の日差しがこんなに差し込むことはない。
それに。

何か、いつもより窓が大きい…??

「…………」

…まあいいか。

目覚ましはまだ鳴らない。
ということは、まだ起床時刻ではないのだ。
それがあと残り一分のことだったとしても、今日は寝ていたい気分だった。
なんだかいつもより身体が重い。全開のカーテンを閉める気にもなれない。
春の日差しの所為もあるが、なぜか感じる気だるさに負けて、雪男は珍しく二度寝を決め込んだ。
普段寝ている間は外しているはずの眼鏡がなぜだか瞼の上にあって、目を瞑っているとはいえ邪魔なそれを今更ながら取ろうかと腕をあげる。
眼鏡を取ろうとあげた腕が少し眩しすぎる朝日を遮って、ちょうどいいとそのままもう片方の腕も持ち上げ目蓋を覆うと、もぞり、と横で何かが動いた。
ギクリ、雪男は固まる。

…なんだ?

確かに今、何かが動いた。
一気に覚醒した感覚。
耳を澄まさなくても聞こえる、無防備な誰かの息遣い。

…なんで気付かなかったんだ…こんなにもあからさまな気配が横にあるのに。

ぎぎぎ…と雪男は恐る恐る顔を横に向けた。
すぐ横にあるのは、桜色の塊。
朝日を受けていつもより淡く映るその髪の持ち主なんて、雪男の知る限り一人しかいない。

…う…嘘…っ

ぼんやりしていた雪男の頭に、昨夜の不祥事が駆け巡る。
不祥事。
それすなわち。
寝てしまったのだ。雪男は。今となりですやすやと寝息を立てている男…志摩廉造と。

…どうしようっ

雪男は動揺した。
志摩と寝てしまったことが嫌だったわけではない。
むしろ…。

…嬉しい…けど、どうしよう…。

雪男は志摩が好きだった。
決して近くない距離感を保ったまま、高校生活を終えて。そのときはまだ別段何とも思っていなかった。
卒業後は地元の京都で祓魔師として働き出した志摩と、正十字学園町に残って大学生活を送りつつ祓魔師の仕事も平行している雪男は、仕事上の付き合いが出来た分学生時代よりもその距離を縮めていた。
軽い性格を装ってその実明陀に、勝呂に忠実な志摩にそれとなく正十字の内情を聞かれ。それならばこちらもと明陀の状況を伺うため、打ち上げと証した仕事後の『飲み会』をするような仲になって早数年。
明陀は正十字騎士團に属しているが独特の文化を持っていて。騎士團は明陀を吸収したものの微妙な距離感を保ったままで。お互いがお互いを測りあっていた。
けれど、そんな双方の思惑が渦巻いていたはずの『打ち上げ』は、今ではただの飲み以外の何でもなくなっていた。
教師と生徒という壁を取り払い仕事仲間として喋ってみれば、意外にも深い面を持っていた志摩に雪男いつしか惹かれていた。
しかし、それを志摩に言うつもりはなかった。
女好きを公言して憚らない志摩に告白だなんて、成就するわけがない。
それで遠くに行ってしまわれるくらいなら、飲み友達としての居場所を確保しておきたかった。
けれど恋愛に免疫のない雪男にとって、持て余すその気持ちは募るばかりだった。
彼を独り占めしたいとか、そんな大それたことを願っているわけではない。
ただ、少しでも多くの時間、その横に居たかった。
そんな秘めた想いを抱えてもうどれくらい経っただろう。
それでも失くすならば言うつもりは全くない、ということには変わりなかった。
でも。一生涯隠さなくてはならないだろう自分の恋心が少し不憫にも思えて。
ついに言ってしまったのだ、昨日。
昨日は四月一日。
エイプリールフール。
言うだけ言いたい。
でも、受け入れてもらえる自信はないから。
冗談にしてしまえばいい、と。
いつ言おうとどきどきしながら、常より過ぎてしまった酒。
酒に強い志摩は同じ量飲みながらけろりとしていたが、雪男はこれ以上飲んだら前後不覚になって言わなくていいことまで言ってしまいそうで、ようやく覚悟を決めた。
自然に、冗談にしてしまえるように。
酔いが回ってふわふわする頭と口でも、ちゃんとあらかじめ決めてあった言葉を紡げた。

『僕、実は志摩くんが好きなんです』

何の脈略もなく。唐突に言った。
あまり前置きをすると、『真剣』になってしまいそうで。
あくまで『冗談』っぽく。
それでもようやく志摩に向かって好きと告げられたことに、雪男の頬は緩んだ。
もともと応えて欲しいと思っていたわけではない。
ただ純粋に、好意を伝えられたことが嬉しかった。
ふふ、と自己満足に小さく笑って。なんてね、と、これもあらかじめ決めておいた、この告白を完全に冗談にするためのセリフを声にしようと思ったら、急に天地がひっくり返った。
酒で緩慢になった頭で何だろうと考えている間に、担がれて、運ばれて。
あっという間に裸に剥かれ、そして…

…わあぁあああっ///

思い出して、雪男の顔が真っ赤になる。
直接自分の息で感じた彼の息遣い、廻された腕、髪を撫でた優しい指。
彼に触れられた箇所が、彼に触れた箇所が、熱くなる。
思いもよらなかった幸せな時間。
受け入れてもらえるなんて思わなかったから。
いや。
…受け入れてもらえた、と思うのは早い。
冷静に昨夜のことを分析すれば。
思い返せば、昨日の行為には何の言葉もなかった。
キスの合間に開きかけた唇は、結局何の睦言も紡がなかった。

『いつまでそんな来る者拒まず去るもの追わず、なんてことしとるつもりや』
『えー、せやかて勿体無いですやん』
『…おまえ、いつか刺されんで』

高校時代、たまたま聞いた勝呂と志摩の会話を思い出す。
自分の知る限り、そこまで不誠実なことはなかったと思うが。
もしかして本当に。

…誰とでも寝たりする、のかな。

そう思った瞬間、一気に心が冷えた。
あんなものは酒の勢いで一晩だけの関係だったんだという自覚はある。けれど、ただ据え膳を食わないのは勿体無いというだけで欠片も好意がなかったのだとしたら…やはりそれはつらい。

あ、まずい…

じわじわと目頭が熱くなる。
雪男はそれをなんとか飲み込むと、ゆっくりと上体を起こした。
それでもまだ目覚めない志摩を一瞥すると、自分の服の所在を確かめた。
廊下にまで点々と散らばる二人分の服。
狭いビジネスホテルの一室に広がるその生々しい跡に、雪男はくしゃりと顔をゆがめた。
ふと見れば、枕元にあった時計は既にいつもの起床時間。
…学校、行かなきゃ。
鬱々考えてたって無駄だし、今日も大学はある。
全てを割り切れたわけではないけれど、うじうじしていても仕方ない。とにかく服を着ようと、ベットから抜け出すために片足を床についた。途端。強い力でベットに引き戻された。
抱き込まれて下からおそるおそる見上げると、薄茶色の瞳がまっすぐに雪男を見つめていた。
「おはようさん」
「おはよう…ございます…」
ただの朝の挨拶なのに、どきどきが止まらない。
じっと見つめられ居たたまれなくて、雪男は視線を逸らす。
抱きこまれた頭を撫でられて、その指の感触にまた泣きたくなった。
「で、本心はどうなん?」
「は?」
唐突な言葉に、雪男は逸らした視線を戻した。
「昨日、エイプリールフールやったやろ?」
ぎくん。
雪男の肩が強張る。
…どこまでバレているんだろうか。
何も言えなくて、雪男はぎゅっと目を瞑った。
「あ。もしかしてどこか痛いん? 大丈夫?」
顔色の変わった雪男の表情を勘違いしたのか、志摩は髪を撫でる手を止めて、雪男を覗き込む。
「だいじょうぶ…です」
「ほんまに? あんな早急に抱くつもりなかったんやけど。ごめんな。でも、」
回らない頭で、ごめんってなんだ、と雪男は考える。何を謝られているんだろう。このまま一回きりの関係だと、切り捨てられることについてだろうか。
「昨日のあれは、せんせかて悪いで」
志摩が何を言わんとしているのか雪男にはわからない。ただ、悪い、と言われたことに雪男は覚悟を決める。
あれはただの酒の過ちだと、あの場であんな『冗談』を言った自分が悪いのだと…


「全部冗談にするつもりやったんやろ?」


「え?」

予定外の反応に、雪男は閉じていた瞳を開けた。
少し上から見下ろしてくる、志摩の口元に浮かんでいるのは苦笑い。

「俺の返事なんて聞く気ないみたいな顔して。そのまま冗談やったことにしようとするやなんてヒドイわ。俺かて、若先生が好きなのに」

「はえ?」

言い終わると同時に鼻筋に口付けられ、雪男は裏返った声を上げた。
「何おかしな声出してるん」
「だ…って。あの…好きって…、昨日は何もっ」
嬉しいことを聞いたはずなのに、にわかには信じられない。
纏まらない考えと平行してまともに言葉を紡げないでいる雪男に、志摩は唇を尖らせた。
「エイプリールフールにかこつけて、全部冗談にしようとしてはった人が何言うんです。せやから、昨日は、言いたくなかってん」
昨日はエイプリールフールだったから…冗談と思われたくなかったから…?

それって…

じわりと込み上げてきたものを、雪男は今度は我慢できなかった。
「うえっ! 何?! 何で泣いてはるんっ?!」
「う…嬉しくて…」
ぽろぽろと泣きながら、雪男は志摩の背にしがみ付いた。
ぎゅうぎゅう抱きしめる雪男の背にも、志摩の腕が廻る。
「うん、俺も嬉しい。なあ、今のは本心やろ? 今日はもうエイプリールフールやあらへんよ」
声にならなくて、雪男は何度も頷いた。
「よかった。昨日はちょお不安やったん。ずうっと欲しかった言葉もらえてんのに、アンタ明らかに茶化そうとしてるんやもん。もしかしたら、ほんまにエイプリールフールにかこつけたただの冗談かもて。せやかて冗談にされてなるもんかて思ったよ。後から嘘やなんて言えんように既成事実作ってやろ、て」
髪に顔を埋めるように囁かれる言葉に、雪男の涙腺はさらに緩む。
「若先生、好き。なあ、俺の恋人になって」
「…はい」
か細い雪男の返事は、そのまま志摩の唇に吸い込まれた。
 

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