前から書いてたのは書き上げるのを諦めて急仕立ての短文チョコレイブレ。
ま、まだ2月だから許されるよね・・・?
ユラ邸に行く前の設定なんですが、季節感とか色々捏造してます。
にしても原作…あうあう。
※気持ちをバレンタインにしてお読みください※
「レイムさん入るよー、ブレイク居るー?」
ノックもそこそこに勢いよく開けた扉の先には、やはり居た目的の人物。
「やっぱりここに居た!」
「…オズ様」
「おや、オズくん」
部屋の主が執務机で書類と格闘しているのと対照的に、テラスでのんびりと紅茶を飲んでいるブレイクは黒い制服に包まれて尚存在が希薄だ。
白い顔に唯一色を添える緋色がつと正確にこちらを捉えて、とてもそれが見えていないなんて思えなかった。それでも。いつもならブレイクに「仕事をしろ」と口煩く言っていたはずのレイムが諾として一人黙々と机に向かっているのは、もうブレイクがそれらを処理することが出来ないからだ。
「何の御用ですカ?」
「ん、大した用はないんだけどさ、」
部屋主でもないのにちょいちょいと手招きしてくるブレイクに近づきながら、本当の理由は言えなくて少し言い澱む。
「まあお掛けなさいな」
勧められるがままにブレイクの目の前の椅子に座り、オズはぶらりと足を前後に動かした。
…心配して空いた時間に見に来た、なんて言えない。
気付いてしまったオズとレイムを除けば誰にも視力を失ったことを自分からは告げる気がないらしい彼は心配などされたくないだろう。
「ユラ邸に行くのにさ、シャロンちゃんと服を見に行ったんだけど、」
これ、ともっともらしい理由として持参した包みを取り出す。
「ワタシに?」
「そ」
カサリと白く細い指に包装が解かれるのを見ながら、開けたところで彼には見えないのだという事実は飲み込んだ。
「ブローチを赤にするか紫にするかで悩んだんだけどさ」
「綺麗な紫ですね」
オズの来訪に積み上がる書類から顔を上げたレイムは仕事を中断していて、オズ様どうぞと紅茶を勧めながらブレイクの手元を見てさりげなく告げた。
勧められたお茶に礼を言いったところではたと気付く。
来客にお茶を勧めた後は「では仕事に戻らせて頂きますね」と執務机に戻ったレイムはそれ以上の言葉を発することはなく。
ブレイクはいつも通りの飄々とした笑みを浮かべているのだが、いつ訪れてもテンポよく運ばれていたはずの会話もなく、二人の間に流れる空気がどことなく、本当になんとなくだけれどいつもよりしんみりとしている気がして、オズは努めて明るい声を出した。
「ブレイクは細いから、タイとかアクセサリー類はボリュームのあるものがいいだろうって、シャロンちゃんと選んだんだ!」
「それは、ありがとうございマス」
一度広げたタイを綺麗に畳んで収納する彼はいつも通りだ。
…なら、この空気はなんだろう。
違和感を感じたまま白い箱に収められるリボンタイを見ていた視界に、卓上にある対照的な黒い箱が映る。
「あ! アッシュのチョコじゃん!」
いつきてもお茶請けに甘い物を食しているブレイクだが、今日は有名店のチョコレートのようだった。
まるで飲み込むように一度に大量のケーキを食し、シュガーポットの砂糖すら一瞬で消費するブレイクには控えめな量のそれは、めずらしくまだ半分ほどしか手をつけられていなかった。
ならば今のうちと、ここの美味しいんだよねー!と言って伸ばした手が空を掴む。
「あげませんよ」
すいと小箱が持ち上げられ、オズは机に突っ伏した。
「ケチ! いつもだったらくれるじゃない」
っていうかどうせそれもレイムさんが買ってきたんでしょ?とオズがむくれて告げれば、
「…今日は駄目です」
ちらりと見えないはずのブレイクの視線が部屋の中に向けられて、つられて見ると視界の先の人物もこちらを見ていた。
「…………」
あ。
今日は、うん、あー、そうか。
「本命じゃもらえないね」
にやりと笑って告げれば、目の前の白い存在にほんの少しの朱が差した。
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