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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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別れてるのに両想いな大人志摩雪。
某さまから要望があったので続き書くかも書かないかも。





真夏だというのに、冷蔵庫を開けると見覚えのない真っ赤なイチゴ。
きちんとドアの鍵も閉めて出勤したし、帰ってきてからも異常はなかった。
ミネラルウォーターのペットボトルを出そうと何気なく開けた、小型の簡易冷蔵庫の一番上の段、中央手前にそれはあった。
犯人はわかっている。
イチゴは野菜室に入れるように何度言っても彼はいつもそこに置く。
そして彼がイチゴを持ってくるのはいつもあることが起こった時だ。



*なついちご*



彼―――志摩くんがイチゴを買ってくるのは、いつも決まって僕の体調が悪い時だ。
そういえば、ここのところ微熱が続いていた。
体力の無かった子供の頃と違って高熱を出すことはなくなったが、ゆっくり休める時間が減った分完治せずにじわじわと微熱が続く。
今回も少し体調が悪いところに2週間近く休みがなかった所為で、充分に身体を休めることが出来ずに微熱が治まらずにいた。
でもそれは本当に微かなもので、気にするほどのものではなかった。
顔色も変わらなければ普通に仕事もこなしてきたのに、さすがに彼は目ざとい。

…今日待機所で会った時の、一瞬の沈黙はこれの所為か。

自分でも気にしていなかった程度の体調不良。
それに気付いた志摩くん。
それは彼が他の人間よりも目ざとい、というのもあるけれど、もしかしたら、まだ…忘れていないのかもしれないと。そう思うのは、僕の都合のいい勘違いだろうか。

何故志摩くんが僕の体調不良時にイチゴを買ってくるのかといえば、昔々、まだ僕達が恋人同士だった頃の話。
高校生の頃には、幼少時に病弱だったなんて思えないくらいに体力を付けていた僕だけど、志摩くんと付き合い始めて間もない高1の冬に、めずらしくひどい風邪を引いたことがあった。
その日は朝から体調が優れなかったのだけれど、兄さんが「これも修行だ!」と言うシュラさんの任務に連れられることになっていて、「もしかして具合悪いか?」と伺う兄さんに心配を掛けまいと、大丈夫と言って普通に学校と祓魔塾をこなした。
そして、祓魔塾の授業後に兄さんを見送った瞬間に気が抜けて倒れてしまって。
次に目を開けた時には自分の部屋のベッドに寝ていた。
ぼんやりと見た先には泣きそうな顔の志摩くんが居て、何か食べたいものはあるかと聞かれて思い浮かんだのが「イチゴ」。
特にイチゴが好きなわけではないけれど、その前日に初物のイチゴをみかけていたのでふと思い浮かんだんだっけ。
熱に浮かされながらそれを告げると、「買うてくる!」と消えた志摩くんが絶対二人じゃ食べきれないだろう沢山のイチゴを抱えて帰ってきた(実際食べきれずに、帰って来た兄さんにジャムにしてもらった)。
苦しくて水すら飲むのが辛かったのに、誰かに看病されるのも何か強請るのも昔の記憶でなんだか嬉しかった僕は、あっという間にイチゴを1パック全部食べてしまった。
そして一晩寝たら、完治とまではいかないが、熱はすっかり引いていた。
起きると充血した目の志摩くんが覗き込んでいて、明らかに寝てないその顔に、申し訳ないと思うのになんだか胸がほこほこして、志摩くんの買ってきたイチゴのおかげだと告げた。
イチゴって風邪に効くんやな、なんて、冗談だか本気なんだかわからないおかしな事を言う志摩くんについ、そうだね、と答えた。

それがきっかけで、彼は僕の体調が悪い時にはイチゴを買ってくるようになった。

気遣いが嬉しくて、毎回おとなしく食べていたが。
実際はイチゴじゃ病気は治らない。
彼はもう少し人間の身体のメカニズムについて理解した方がいいと思う。
大量に買ってきても食べるのは1~2パックがせいぜいだとは気付いたみたいで、買ってくる量は減ったが、もしかしたらイチゴで病気が治ると今でも信じているのかも知れない。
当時を思い返してイチゴを見ながらついつい顔が緩んでしまう。

…いけない。

昔は昔、今は今、だ。

物思いを遮るように、僕は何も取り出さないままに冷蔵庫を閉じた。
これ以上冷蔵庫を開けっ放しにしていたら電気代がかさむ。
それにしても、この時期によくイチゴなんて手に入ったものだ。
いや、それ以前によく覚えていたものだと思う。
今でも鮮やかに思い浮かべられるのに、あれはもう十年以上も前のことなんだ。
なんだかこんな風に思い返すのは初めての事だった。
いろんなことがあった。
彼と過ごした時間。
子供だった。自分も志摩くんも。
今だったら違っていたのかも知れないなんて、考えてみても過去は変わらない。
もしも今の志摩くんだったら。
こんな想いをして…僕から離れることはなかったかもしれない。

…もしも、だなんて、考えてもむなしくなるだけだ。

打ち消すように頭を振ると、窓の外でがさりと音がした。
ああそういえば。
夏の日の締め切った部屋に篭もる熱気が嫌で、窓を開けたまま外出したんだっけ。
思い出して、進入経路となったであろう窓に向かった。
開け放っていた窓のかわりに、締め切っていたカーテンを開ける。



「志摩くん、玄関から来てくださいと、何度言ったらわかるんですか?」



今も変わらず旧男子寮に住まわせてもらっている僕と兄さんだけれど、ここは昔から仕事用に使っている二階の部屋だった。
開いたカーテンの先には大きな木が生えていて、空調のないこの部屋でも終日日陰になっているから夏でも少しは涼しくて、保管している薬草類に及ぼす影響も少ない。
周囲に街燈のないこの旧寮から見る外は暗くて、月の明るい夜とはいえ元々視力の弱い僕にはすぐには彼を見つけられなかった。
がさり。葉を揺らす音がまた存在を主張した。
返事はなかったが、気配を隠していないところからみて何か用はあるようだ。

「こんばんは」

「…こんばんは、若先生」

声と同時に、目の前に葉を掻き分けて志摩くんが現れた。
部屋の前の常葉樹。彼は決まってそこから現れた。そして部屋に上がることなく少しの会話で帰っていくのが常だ。
会話、と言っても今の僕たちには共通の話題は少なくて、ほんとうに軽く一言二言を話すだけだ。
時間にしてものの数分。
学生時代は機関銃のように喋っていた志摩くんだけど、大人になってからは言いたいことを飲み込む表情ばかり見ている気がする。
今も何か言いたげな表情でじっとこちらを見ていて居心地が悪い。
そう長い時間でもないのに、沈黙に耐え切れなくなるのは決まって僕だ。

「あのイチゴ、志摩くんですね」

それ以外に言うこともなく。確認というよりは断定した言葉にようやく志摩くんが口を開いた。

「おん。昼、会うた時に若先生の顔色が悪かったもんやから。…勝手に入ってすんませんでした」

どうやら不法侵入を謝りに来たようだ。謝るくらいなら、初めから手渡せばいいものを、と思わなくもないが、もごもごと言葉を紡ぐのがおかしくて、僕は素直に礼を言うことにした。

「いいえ。それより、イチゴ、ありがとうございました」

「どう…致しまして」

ほっとしたような、だけど何かを諦めているような、柔らかい笑顔。
彼はこんな風に笑う人だったか。いや、こんな表情は昔はしなかった。
また無意識に昔と比べている自分に気付いて、僕は一度ゆっくり瞬きをしてから志摩くんを見た。

「それにしても、この時期にイチゴなんて良く手に入りましたね。こんな真夏でも、売ってるものなんですか?」

素直な疑問。
会話を振るとか関係なく、気になったから聞いてみた。

「どうしてもみつからんで…実は、そこの商店街のケーキ屋に頼んで分けてもらったんです」


…そこまでして買ってくるか、フツウ。


僕のその無言の呆れに気付いたのか、志摩くんが視線を彷徨わせた。

「あ、あの、俺、これから任務なんで行きます。はよう、良おなって下さいね」

言うが早いか、こっちが何か言う前に志摩くんは一瞬でするりと木を降りて、立ち去ってしまった。
暗闇の中、ばたばたと忙しない駆け足の音が、あっという間に遠ざかる。
相変わらず、落ち着きのない人だ。
こういうところは昔から変わらない。



「…………」



目の前の葉が風でザワリと揺らめく。
ゆるりと瞬いて見た先にはもう彼の影も足音もなく、手を伸ばせば触れることのできる木の枝を撫ぜた。
僕は窓もカーテンも開け放ったまま、入り口付近に戻って冷蔵庫を開けた。
中身の少ない冷蔵庫で、そこだけひときわキレイな彩りを見せるイチゴ。
イチゴを一粒取って一口でそれを食べた。
口いっぱいに広がる甘ずっぱさ。
やはり季節モノと違って、甘いだけではないソレ。
まだ少し堅いイチゴは、それでも瑞々しくて。
喉を通ったのは冷たいイチゴのはずなのに、胸がじわじわとあたたかくなった。



訂正。

どうやら、
僕の体調不良は、イチゴで治るようだ。

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PH・青祓・幽白・炎ミラ・その他ジャンルいろいろ。
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