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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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8/20はレイブレの日ー!
としぶで募っていたので、久々にレイブレ。
シャロンが出張っててシャロブレですけどレイブレです。
書こうと思ってたとこまで終わってないので、続きを書きたい…と…思ってはいる…
 



*幸せが訪れるように*



清々しく晴れた夏の午後。
眩しいくらいの日差しではあるものの、一年を通じてあまり気温の上がることのない気候のここパンドラでは、暑い日であっても30℃を超えることはそう無く過ごしやすい。
今日は特に穏やかな風が気持ちよく、読書にはもってこいの日だった。
ブレイクがふらふらと出て行ったため一人になった空間で、シャロンは愛読書を手に取る。
重厚な表紙を開くと、それとは対照的に薄く繊細な遊び紙が、はらりと付いて捲れた。
中表紙には薔薇をバックに見つめあう男女二人。
もう何度読んだかも分からない人生のバイブルとも言えるその本は、何度読んでも新しい感動をシャロンに与えてくれる。
じっくりゆっくりと読み進み、ついに終焉を迎えた物語に、ぱたんと本を閉じた。
「やはり、最高ですわ…」
じんわり広がる余韻にほうと溜息を吐く。
既に数え切れない回数読み返しているが、何度読んでも素晴らしい。
本の中で描かれるラブロマンスは自分には縁遠いものかもしれないけれど…。
恋に恋していた頃から変わらず読んでいる恋物語は、その時々のシャロンの気持ちで何通りにもその姿を変える。
今は物語の幸せそうな二人を読むと、幸せになって欲しいと思うと同時に、少しだけ胸が痛む。
つい最近、初恋に区切りをつけたばかりのシャロンには、幸せそうな’二人’がほんの少しだけつらい。
落ち込むつもりはないけれど、きっと、彼の死を見届けるまでは、自分は次に進むことはできないのだとシャロンは思う。区切りをつけたとはいえ、好きではなくなったわけではないのだ。
出会った子供の頃からずっと、淡い恋を抱き、けれど実の兄のように慕いもし、彼の手助けするためにならとチェインと契約する決意までした、初恋の人―――ザークシーズ・ブレイクの寿命はあと僅か。
最後の時を、幸せに過ごしてくれたらと思うから、自身の気持ちを告げることはない。
最期のその時まで、見守ろうと決めたから。
…だから―――。
そっと、シャロンは小さな手を胸に添え、大きく息を吸い込んだ。ゆっくりと瞬いた後に見上げた空には雲ひとつない。
季節が秋へと遷ろう昨今、日が落ちるのも少し早くなったなと西の空を見た。
夕方にはまだ早いが、段々と涼しさの増していく空気に、そろそろお茶が飲みたくなった。
久しぶりにクスミのお気に入りのハーブティが手に入ったし、それに今日は、ここに来る前にアッシュの限定チョコレートケーキを買ってきてある。
せっかくだから、あの二人も誘って午後のティータイムを楽しもうと、シャロンは部屋を出た。
邪魔をするのではないかという迷いがなかったわけではないが、もう充分二人きりの時間は作ってやったはずだと思う。
そもそもが、シャロンの使用人でもある彼が居なければティータイムは始まらない。ここパンドラには使用人は数多く居るが、彼が一番シャロンの好みを心得ているのだから。
残り少ない彼の時間。全てを手放してあげることはできない未練に、けれどこのくらいは許して欲しいと思う。
それでも、出来るだけ邪魔をしたくないとも思うから、ゆっくりと歩んで目的の部屋へと向かう。
そうして訪れた執務室は、けれどしん…と静まり返っていた。
物音一つしない扉を前に、シャロンははてと首を傾げる。

「…二人とも居ないのかしら」

いつもであれば、テンポの良い言い合いが扉の外まで聞こえてくるのに。
ガチャリ。
とりあえず、と開いた扉の先にはしかし、
「…………」
「…………」
そこに在ったのは、無言で顔を逸らしている二人―――レイムとブレイクの姿があった。
シャロンが羨む、普段二人を包んでいる心地いい沈黙とは程遠い、ピリピリとした空気。
目線は合わせないよう黙々と仕事をしながらもブレイクを気にする風のレイムと、ぷうと目に見えるほどに頬を膨らますブレイクを見て、シャロンはあらあらと頬に手を添えた。
それはレイムがまだ子供の頃であればよく見かけた光景であったが、最近では言い合いをしていてもこんな風に無言であることなどなかったのに。
ブレイクが子供っぽい行動を取ることは度々あるものの、平素であればブレーキ役を務めるレイムまでが意地になったように無言を貫いている。
いい大人が何を拗ねているのか。
「二人ともどうされましたの?」
「「…………」」
「また喧嘩ですの?」
「「…………」」
「紅茶を飲んで少し気分を変えませんか?」
「「…………」」
「―――…」

ゴッ

「っ!」
「ひっ」
シャロンが重ねて優しく尋ねても無言のままの二人の間を、スッとどこからともなくハリセンが飛び空気を揺らした。
ただの紙のはずのハリセンが壁突き刺さり揺れる様を横目に見たレイムとブレイクは、すり抜けたその風圧はいか程の威力なのだと冷や汗を流しながら、そろりとシャロンを見やる。
二人の見たその先。うふふふと軽やかな声を零したシャロンはしかし、すでに輪郭しか認識することの出来ないブレイクでさえも禍々しさを感じるオーラを纏っていた。
「何か言ってくださらないとわかりませんわ」
「「…………」」
にこりと圧力を感じさせる笑みを浮かべるシャロンを恐れながらも、言いたくない、とばかりに未だに口を噤む二人。
「~~~!」
リミットを越えたシャロンが、更なる圧力を掛ける。
「喧嘩をしたのなら、原因を言いなさい!どちらが正しいのか、わたくしがジャッジして差し上げますわ!」
仁王立ちのシャロンを見て、ようやく、ブレイクが口を開いた。
「だって…」
この中で一番の年長者とは思えぬ口ぶりだが、ようやく話そうという気になったかとシャロンが見守る。

「だって、レイムさんの誕生日、先月だったって言うんですヨ!!」

「は?」

「それは、…聞かれもしないのに言うのもおかしいだろう」
「言ってくれたっていいじゃないですカ」
「そんなことを言ったら、私だってお前の誕生日など知らん!」
「言ってないんだから当然デスー」
「なっ」
売り言葉に買い言葉。
ぎゃいぎゃいと言い争う二人に、ぽかんとシャロンはその様を見つめる。
つまりは。
「…つまり、ブレイクはレイムさんの誕生日をお祝いしたかったのに、教えて貰えなくて拗ねている、と、そういうことですね」
「…っ!」
「ち、違いマス!」
赤くなる二人を薄目で見て、やれやれと、大の大人の男が二人で何をやっているのかと思う。
最近になってようやく想いの通じたらしい二人は、シャロンの愛読しているロマンス小説の登場人物よりも初心で、時々羨ましいを通り越して何だかもどかしい。
きっと、シャロンと同じように、二人ともその想いを口にするつもりはなかったのだと思う。
お互いがお互いを大切にする余り、想いを打ち明けることが出来なかったのだろう。
けれど、ブレイクの失明を知り本当に遠くない未来彼を失うのだと実感したレイムは、そしてレイムが死んだと思い込んだ時に感じた痛みにブレイクは、自分の気持ちにやっと素直になったようだった。
何を言われたわけでもないが、二人の雰囲気が変わったことから、やっと納まるところに納まったのかとむしろ脱力したのはつい先日。
端から見ていれば、もう随分と前から両想いで、こちらは入る隙間なんてないと憂いていたというのにやっとなのか、と。
本当は少し悔しかった。
レイムと二人、レインズワースの地下で彼を見つけて、幼少期を三人ともに過ごした。
その後バルマ邸に戻ったレイムより、ブレイクと過ごした時間はきっとシャロンの方が長い。
それなのに、きっとシャロンよりも、誰よりも、レイムはブレイクを見ていた。
自分が気付かなかったブレイクの失明に、いち早く気付いたレイム。シャロンには色んなものを隠していたブレイク。…つまりはそういうことなのだ。
強く想い合っている二人。
今だって少しばかり必死すぎるブレイクにも、そんなくだらない理由、だなんて自分には言えない。
…だって来年は、祝えるかわからないから。
ブレイクも必死なのだ。残された時間に、どれだけ彼を愛することができるのか、と…。
「ふふ」
尽きることなく言い合う二人に、その根底にあるものにむしろシャロンは、先ほどと違う笑みを浮かべる。
ふつふつと、奥底から笑いが湧き上がった。
…ああ、本当に、なんて愛しい二人だろう。
きっと自分は、こんな風に自然体で向きあう二人を見たかったのだ。
だってシャロンが見てきたのは、恋する相手のブレイクだけではなくて、レイムとブレイク二人の恋物語。
ずっと、ずっともどかしい想いで二人を見てきた。その二人が結ばれたことが、こんなにも嬉しい。
「お嬢サマ?」
「シャロン様?」
突然笑い出したシャロンを怪訝に見てくる二人に、何でもないのだと告げる。
そうして、隠すとまではいかなくても、今はまだ打ち明けられていない二人の仲を指摘するわけにもいかないから、シャロンは言葉を濁して話題を変えた。
「ところで、お二人ともいつが誕生日ですの?」
そう言えば、自分もこれだけ長く彼らと過ごしてきて、二人の誕生日を知らなかったことに思い至ったので。
三人とも、この15年、’目的’のために走ってきた。色んなものを犠牲にして生きてきた。
今更であるが、祝えることならシャロンとて二人の生まれたその日を祝いたい。
そう思って訊けば、ちら、とブレイクが見えない視線をレイムに向ける。
それを感じ取ったレイムは、しぶしぶと言った風ではあるが、誕生日を明かした。
「7月9日です」
「…9月30日デス」
たぶん、はっきりとした日付はブレイクも今知ったのだろう。同じく渋々誕生日を告げたブレイクの声が落胆している。
また拗ね出しそうな雰囲気に、そうか、それならお前の誕生日は一緒に祝おう、とレイムが宥めていた。
レイムの誕生日からは既に一ヶ月以上も経過していたが、ブレイクの誕生日は一ヶ月少し後。
祝うならば、きっとこれが最後のチャンスだ。
9月末といえば気候もいいし、日中はみんなでパーティを開いてもいいかもしれない。
そんな想像をしながらカレンダーを見て、シャロンは声を上げた。
「まあ!まあまあ!」
興奮ぎみに上がった声に、レイムがびくりと肩を揺らす。
「どうしたんデス?お嬢様」
気付いたその事実に、きらり、シャロンの瞳が輝く。
「見てください、今日は奇しくもお二人の真ん中バースデーですわ!」
「は?真ん中…?」
はてな、と瞬く二人を余所に、シャロンは興奮ぎみに告げた。
「わたくしのバイブル『お嬢様と駄犬』に出てくるのですけれど、二人の誕生日のちょうど中間の日を、’真ん中バースデー’と呼んで、二人の記念日とするんですわ!」
見てください、と卓上カレンダーを手に迫る。
「7月9日と9月30日の真ん中は今日8月20日!お二人にとって今日が真ん中バースデー。今日をお祝いされればよいのですわ!」
名案だとばかりにシャロンが二人を見上げると、チラとブレイクがレイムを見る。それに便乗してシャロンもレイムを見れば彼は、う、と一つ呻いてから咳払いをし、負けたとばかりにレイムがついに妥協する。
「…今日済ませなければいけない仕事は終えたし、あとは明日にしてティータイムにするか」
ブレイクの顔に喜色が広がる。
真っ白な頬にほんのりと朱が上り、長い時間を共に過ごしたはずなのに初めて見るそのはにかんだような笑顔に、では、とシャロンは扉に向かった。
「では、お二人の特別な日に。後でケーキを届けさせますわ」
「え?」
にこやかに扉に手を掛け、シャロンは室内を振り返る。
「わたくしは一足先に帰ります」
「え、せっかくいらっしゃったのに」
「お茶のお誘いだったのでは?」
最初はそのつもりだったはずのシャロンは、いいえ、と首を振った。
「今日はお二人にとって特別な日です。ですから、どうぞ二人で」
引きとめようとするレイムをにこりと笑顔で制止し、ドレスの裾を翻す。ふわりと揺れるその裾は、今のシャロンの気持ちのように軽かった。
二人を見て、大丈夫だと思えたから。
きっと。自分の大切なこの二人は、近い将来悲しい別れを迎える。
もしかしたら、思い出がたくさんあるほどつらくなるかもしれないと危惧していた。
けれど、それでも二人で居ることを選んだのだと言うのなら。
…あの二人なら、きっと大丈夫。
そう確信できたから。今、心から言える。
静かな廊下を弾んだ気持ちで歩きながら、シャロンはぽつりと呟いた。

「お幸せに…」

どうか、と願う。
多くの困難を乗り越え、ようやく結ばれた恋人たちに幸多からんことを…―――!
 

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