#1の関連話です。
	
	えーと、なんというか、私13~14巻の強かなレイムさんのイメージが強くって。
	どうにもストー○ー風味w
	強気なレイムさんが好きなんです…
																									
									
	2.『思いがけない暖かさに』
	(#1の関連。レイムさんの回想編)
	
	
	この想いは勘違いだと言い聞かせた10代。
	残念ながら勘違いではないと、半ば諦めて覚悟を決めたのは20才になったその日。
	初めて奴に想いを告げたのは、21(今年)の春。
	長い長い、未だに続く片想い。
	甘く私の胸を締め付けるそれは、けれど今思えばどれも幸せな痛みかもしれない。
	 
	*****
	 
	いつもいつも、レインズワース邸の門を潜る時には、緊張をする。
	まず、シェリル様からすんなりとルーファス様の手紙への返事が頂けるのかという不安。
	そして、今はそれに付随して。
	…先日、ついにザークシーズに想いを告げてしてしまったことによって、変わってしまったであろう二人の距離を測りあぐねていたから。
	NOの返事にも諦めないと宣言したが、かといってどうすればいいかなんて分かるはずもなく。
	まずは並んで生きていけるようにと、仕事に打ち込んでみるものの、根本的解決には至らない。
	大きなミスこそしていないが、最近集中力に欠けていると自分でも気付いていた。
	今回のこの『お遣い』も、ルーファス様が気分転換にと気遣ってくださったようだ。
	「仕方ないわね。レイムさん、私が返事を書く間、シャロンと遊んで時間を潰して下さるかしら」
	いつになくすんなりと返事を認めるとの了承をくださったシェリル様に、ああ、と気付いた。
	こんなことではいけない。
	こんな浮ついた気持ちでいては。
	諦めないと決めたからには、立ち止まっている場合ではないのだ。
	何らかの大きな目的へむかっている彼と寄り添うためには。
	強くあらねばならないと、それだけは分かっているのだから。
	決意も新たに顔を上げれば、ふと手入れされた庭の白い薔薇が目にとまった。
	手間のかかる、けれど手をかければかけるほどに美しく咲き誇る花。
	美しいけれど棘のある花。
	庭師に頼んで数本を小さなブーケにしてもらう。
	丁寧に棘を取られたそれは、地に根を下ろしていた時と違って、なんて頼りなげで儚い。
	ああ、これでは、奴には不釣合いかもしれない。
	沈みそうになる思考を叱咤し、目的の部屋へ向かう。
	シャロン様のもとに行くとなると、彼が傍に控えている可能性は高い。
	振られた直後である身としては、会うのはまずは二人きりでないほうが好都合だ。
	少し緊張をしつつ到着した部屋の扉は閉じられておらず、だが、礼儀としてまずノックをする。
	「失礼いたします。シャロン様」
	声を掛けるも、中から聞こえてきたのは黄色い悲鳴だった。
	「まあまあまあ! とっても似合っているわ! ねぇシャロン!」
	「えぇ! えぇ! とっても素敵ですわ! さすがお母様の見立ては間違いがありませんわ!」
	「そうですカ?」
	「わたくし、もう一人娘ができたようですわ!」
	「わたくしも、お姉様ができたようですわ!」
	きらきらと目を輝かせるシェリー様とシャロン様に挟まれて、ザークシーズが裾を翻してくるりと周って見せる。
	髪は後ろを結い上げられ、左目の上にかかる長い前髪には、薔薇の飾りのついたシフォンが垂れる。
	ふわふわと下半身を覆うスカートとは対照的に、上半身はぴったりと細い腰のラインを見せ付けていた。
	ブルーを基調にしたそのドレスは、背中は大胆に開いているのに、前は喉元から覆われているデザインで。
	それはどこから見ても、妙齢の美しい女性だった。
	そう、彼が身にまとっているのは、女性用のパーティドレス、だ。
	「ザ、ザークシーズ!」
	「あ、レイムさん」
	にこぉ、っと笑みを向けられてドギマギする。
	「あら、ちょうどいいわレイムさん。ちょっとそこに並んでみて」
	扉の前で固まっていると、シェリー様にぐいぐいと背中を押された。
	「レイムさんなら背も高いからザクスと並んでもお似合いね!」
	「え? え?」
	「まあまあ、絵になるわー!」
	「レイムさん、お花はザクス兄さんにお渡しして!」
	「そうね。頂くなら薔薇は赤に限ると思っていたけれど…ザクスになら白が似合うわ」
	あれよあれよという間に、自分も二人の好奇の眼差しの餌食となる。
	そのままなぜか、いくつも不思議なポーズを取らされる。
	回した腕に納まる細い腰と、思いがけず触れた素肌に心臓が破裂するかと思った。
	「レイムさん、お顔が赤くてよ」
	ぼそりと耳打ちするシェリー様に、私は益々顔に血を上らせた。
	それが聞こえてか、ザークシーズまでもが人の悪い笑みを浮かべる。
	「レイムさんてば、もしかしてワタシの『顔が好き』だったんですカ?」
	まるで以前と変わらない軽口。
	…次に会ったら、なんて悩んでいたこちらが馬鹿だったようだ。
	 
	 
	
	さんざん遊ばれてぐったりとした私を置いて、シェリー様とシャロン様は次の衣装をザークシーズに渡していた。
	女性二人のテンションについていけない私は、着替えにと隣室に向かう彼に付きそう。
	「シャロンは大きくなれないカラ」
	たまにこうした『遊び』に付き合うのだと、苦い笑いを浮かべる彼。
	---きっと…大人のドレスを着たいだろうに。
	溜め息ほどの小さな声が響いた。
	ああ。
	大人になることのない少女に、私がほっとしているのだと彼に告げたら怒られるだろうか。
	チェインと契約をして、成長が止まった彼女と、止まらなかった私。
	今でも彼の『妹』にしか『見えない』彼女と、今では彼の身長を追い越した私。
	彼女がザークシーズをどう思っているのかは実際には聞いたことがない。
	けれど、まだ成人もしていない13才の少女がチェインと契約をするなど、どれだけの覚悟を要したのか。
	それほどに彼を想っているシャロン。
	彼女が成長していれば、それこそ聡明で美しい、彼に似合いの女性になっていたのではと思うと胸が詰まる。
	いや、でも。本当は見た目など関係ないのではないか。
	だって彼は、シャロンが成長できないことにこんなにも心を痛めている。
	それに共に過ごす時間で言えば、私なんかよりずっと…---
	「レイムさんは、年上が好みなのかな」
	「は?」
	不穏な思考に飲まれているうちに、ふいに告げられて驚く。
	「ん、なんとなくですケド」
	新しい衣装に身を包んで、こちらと視線を合わせるでもなく鏡をチェックしながらザクスが続ける。
	「うん、そうですネ。レイムさんは尻に敷かれるタイプかナ。きっと年上の女性がお似合いですヨー」
	「なに、を」
	何を言われているんだ、自分は。
	彼の意図が読めなくて、けれど言わんとしている本質は感じてしまって、声に詰まる。
	「だーから。この前好きって言われましたけどー、それって何かの勘違いだと思うんデス」
	首元の大きなリボンを、ありゃ曲がった、と結び直すために解きながら、何でもないことのように言う。
	「若いうちはよくあるって言うじゃないですか。年上へのアコガレ」
	まーキミは私の顔が好みだったみたいですけどー
	ケラケラと笑って告げられるその言葉に、頭が真っ白になる。
	ああ、
	彼にとって関係ないのは、
	気にするほどのものでもないのは、
	見た目でもなく、
	共に過ごした時間の長さでもなく、
	…私の、気持ち、それ自体。
	 
	「私の告白を、無かったことにしないでくれ」
	 
	衝動的に腕を引きこちらを向かせた彼を、思わず近くのソファに引き倒した。
	先ほどよりずいぶんと丈の短いスカートが、ひらりと舞う。
	倒れこんだ拍子に、ピンが取れて髪がほどけて、乱れた長い前髪が彼の片方だけの瞳も隠した。
	圧し掛かると、その身体は意外にも抵抗しない。
	輪郭をなぞっても、髪に触れても、なすがままの彼。
	手を引いた拍子に崩れたのだろう襟元から、白い肌が覗いている。
	思わず首筋に唇を寄せれば、ちゅっ、と軽いリップ音が弾けた。
	初めて近くで嗅いだ彼の匂いに、我を忘れそうになる。
	ああ、少し触れただけでこのザマだ。
	不意に泣きたくなった。
	掴んだ手の思いがけない暖かさに震えるこの指先が。
	上昇するこの心拍が、
	この想いが、
	---勘違いであるものか…!
	祈るようにもう一度、目の前の白い喉元に唇を寄せた。
	それでも、耳元で微かに聞こえる息遣いはまったく動じておらず、
	「いいだろう」
	今までにないほど近くで、低く声が響いた。
	「身体だけならあげてもいい」
	「な…」
	いつもより狭い前髪の隙間から、こちらを見つめる瞳はまるで感情を灯していなかった。
	落とされた言葉に視界がぐらりと揺れる。
	心が、私の欲しいものはそんなものではないのだと訴えかける。
	「でも」
	紅い瞳を覆い隠すように瞼が閉じられた。
	             こ こ ろ
	「そんなことしたら、君の欲しいものは永遠に手に入らなくなりますけどネェ~」
	さっきまでの無表情から一転して、全開の笑みにたじろぐ。
	そうして彼は、ひょいっと、嘘のように軽く私の下から抜け出していった。
	「ま、だからって何もしなくても、何をしても、ワタシは君のものにはなりませんが」
	いつもの読めない笑みを浮かべたまま、ザクスが鏡の前へ立つ。
	あーもう、せっかく上手に結べたのに台無しじゃないですカ、と文句を言ってリボンを結び直している。
	「…ザークシーズ」
	「はイ?」
	呼んだところで見向きもしない彼。
	ギリッと奥歯を噛む。
	悔しいかった。
	…ここまでしても、私の告白はまるで相手にされていないのだ。
	その事実に眩暈がする。
	どうしたらいい?
	どうしたら伝わる?
	考えても答えはでるはずもなく。
	私はソファから降りて、彼の後ろに立った。
	---ただ、わかっているのは。
	「全部だ」
	リボンを結び直していた手が止まる。
	「……」
	「心だけでも身体だけでもない。私は全部が欲しい。だから…」
	
	「絶対に、諦めない」
	
	「ふぅん?」
	鏡越しではあるが絡んだ視線。
	きっちりと襟元を直した彼の口元が、瞳が、弧を描く。
	できるものならばやってみろと言っているようだった。
	敵は手強い。
	この想いは前途多難だ。
	けれど。
	諦めない。
	諦めたくない。
	この気持ちだけが真実。
	 
	 
	 
	蛇足。
	「ところで…」
	「なんです?」
	「その服はなんだ」
	「メイドです★」

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