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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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レイム&ブレイクWeb小説アンソロジー「last」(公開期間は終了しています)の再録です。
これを書いたのは正しく雨の夜でした。
ネタ出しから含めて2時間くらいの突貫工事でw
寄稿物くらいじっくり書けよと思うのですが、逆に時間をかけては文章を書けない人間です。
何事も勢いが大事。我に返ってはいけない。
趣旨上レイブレでなくレイ&ブレなのですが、やっぱりレイブレっぽく…
すみませんでしたw

素敵な企画にお誘いくださり息が止まるほどの綺麗なページを作ってくださった主催さま
妄想を写真にしてくださり驚く程イメージ通り、いやそれ以上の物にしてくださったレイヤーさま
レイブレ不足の私の人生に潤いをもたらしてくださった豪華執筆陣の皆さま
全員にありがとうを伝えたい!
…けどチキンすぎて言いにいけない(苦笑)

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*Frosty Rain*



 初めて手を繋いだ日を今でも覚えている。
 強張る指先が彼から伸ばされたあの日。
 白く細く壊れてしまうのではないかと思った手は、子供の私の手と比べたら実際にはとても大きくて。
 でもそれは、夏だというのにあまりにも冷たかったから、やはり壊れ物のように思えて握り返すことができなかった。
 反対側で同じように手を取られたシャロン様は驚いた様相で、しかし見開いた瞳を瞬かせた後に満面の笑みを浮かべた。
 つられたように口角を上げたザークシーズに、私はいつの間にか緊張し入っていた肩の力を抜いた。
 嬉しそうに彼の腕に抱きついた彼女はつと視線を私に向けて、ひとつ頷いた。
 彼はもう大丈夫。
 そう、思ったのに。
 思えばあれは彼の決意であったのだ。
 変わろうと。前へ進むのだと。
 そのすぐ後に容貌と口調を変えてしまった彼は、ふわふわと前以上に掴み所が無くなって。
 それでも、その後も幾度となく繋いだ手は回を重ねる毎に柔らかさを増して、確かな存在として彼の体温を伝えてきたから。その温もりに安心していたんだ。
 けれど、
 今もこの手の先にお前は居るのだろうか…―――。





「……ん」
 暗闇が目の前を覆っている。
 ここは、どこだ。
 はっきりしない記憶に軽く頭を振るが、現実と夢の間で混濁する意識は未だ覚醒を拒む。どれだけ眠っていたのか部屋は真っ暗で、閉め損ねたのかほんの少し開いた扉から差し込む光が唯一の光源だった。
 かしゃん。いつもの癖で目元に持っていった手がレンズに触れ、眼鏡をしてさえこの暗さなのかと思う。
 着けたまま眠ってしまった所為でフレームに圧迫された目の横がじんと痛み、そこでようやく現実に引き戻された。
 ……ああそうだった。
 ここは…レインズワースの別邸だ。
 目覚めたはいいが視力を失っていたザークシーズの、フォローをすべく一旦戻ったパンドラで、オズ様たちと別れて。
 最低限の残務を整理した後にまたこの別邸に来たものの、熱や外傷があるわけでもない彼はただ眠るばかりですることもなかった。
 眠る彼の呼吸は穏やかで、見ていたら自分も寝入ってしまったらしい。
 それにしても、ずいぶんと懐かしい夢を見たものだ。
 あれはもう十五年近くも前のことなのに、鮮明に感じる温もり。
 いや…。ふと己の手を見れば、それは今まさに彼の手を握り締めていた。
 夢の原因はこれ、か。
 十年以上振りに繋いだ手は、記憶の中よりもずっと小さく華奢だった。無意識とはいえ握り締めていたそれが、よくぞ折れなかったと安堵さえ覚えるほど。
 そっと手を離して、細い灯りを頼りに見つけた燭台を持って部屋を出る。暖房器具のない廊下はひやりとしていたが、まだ夜というほどに気温は下がっていない。廊下を照らす蝋燭から火を移し外を見れば、暗いのは冬の早い日暮れの所為だけでなく、厚く空を覆う鈍色が原因のようだった。
 雨が降るかもしれない。
 重たい空は今にも泣き出しそうで、冷え込む前に暖炉にも火を灯さなければと思う。
 なるべく静かにと扉を閉めれば、かさりと後ろで布擦れの音がした。
「…起きたか」
「レイムさん、今は…夜中ですか?」
「ああ。…いや、まだ18時を少し回ったところだな」
 手元の明かりで時計を確認すれば、意外にも早い時間であった。
 部屋に複数置かれる燭台にも火を移していく。
 視界の端でゆっくりと上半身を持ち上げる影。明るくなっていく部屋で、立てた膝に顔を埋めたザークシーズは真っ直ぐにこちらを見ていた。それは私の持つ灯りを捉えてのことだと思い至るが、彼の視線の動きはあまりに自然で、なにもかもが私の夢だったのではと淡い期待を抱く。
「レイムさん」
「なんだ」
「ここは…北の別邸でしょうカ?」
 期待は、紡がれた問いに落胆に変わる。
 複数ある別邸は屋敷によって調度品が変えられているから、視えていればすぐにわかるはずなのだ。しかしそれならば、視えもしないのに言い当てた彼は一体何を持ってここを北の館と思ったのだろう。
「よくわかったな」
 純粋な疑問はすると口を吐いて出る。
「…クリスマスローズ」
 すん、と一つ呼吸して指された先にある花は、確かに色とりどりのクリスマスローズ。
 切花にするには少々気難しいそれは、花だけが水の上に浮かべられて漂っていた。
「レインズワースの別邸でこの花が植えられているのは、ここだけなんですヨ」
 にこりと淡く笑った顔を少し傾けた彼は、ベッドの縁へと移動する。
「さて、それが解れば話は早い」
 言うが早いか、よいしょと床に足を下ろす。
 立ち上がり、迷い無くクローゼットに辿り着いた彼は、テキパキと服を取り出していた。
「何を…」
「少し外を歩いてきマス」
 まるで普段と変わらない態度と返答に唖然とする。
「お前、まだ病み上がり…」
「だーいじょうぶ」
 問答の間にも着々と着替えを済ませる彼は、しかし衣類の表裏を手で確かめていた。
 ……ザークシーズは、三日で慣れると豪語した言葉を本当にしようとしている。
 全てを難なくこなしているようで、探る手つきと研ぎ澄まされた感覚は、重く私に圧し掛かった。
 最初から誰か―――このことを知るのは私とオズ様だけなのだから、彼が今この場で頼る相手は私だけなのだが―――に頼ることを良しとしないその姿に、握り締めた指が掌に食い込む。
「ならば私も行く」
 止めることが叶わないなら共にと、これでも懸命に押さえて出した声は、硬く、虚空に響いた。
「…歩いてくるだけですヨ? レイムさんはお疲れでしょうから、休んでいれば…」
「書類仕事ばかりで運動不足なんだ。散歩くらいさせろ」
 有無を言わせず告げて、雨が降りそうだから傘を借りてくると部屋を出た。
 玄関でメイドから傘を受け取っていると、いつもの白いコートを着込んだ奴が現れる。
 一歩外に出れば、ぽつり、頬を濡らした雫。
 ほらと差し出した傘に伸びてきた手はほんの僅か距離が足りなくて、空を掴んだ後にもう一度伸ばされた。
 それが、なんだか泣きたいくらいに悲しかった。
 屋敷から煌々と燈る明かりは庭までを照らし、醜く歪む私を隠してくれない。
 クルクルと傘を回す彼の後を歩きながら、ぽつ、ぽつりと傘で跳ねる雨の音を聞く。
 私が落ち込んでいる場合ではないのだと解っても、鬱陶しく降る雨に引きずられるように暗く沈み込んだ。
 対して、その儚げな容貌とは裏腹に彼はどこまでも力強く、私の先を行く。
 置いていかれるような錯覚に一瞬目を逸らした途端。
 カチリ、彼が傘を閉じていた。
「バカ! 何して…っ」
 慌てて近くの木陰へ引きずる。
 この雨の量なら当たったとしても髪も服も多少湿る程度だが、夜の空気は冷たく肌を刺す。濡れた身体が冷えることもあるだろうと咄嗟に引いた手は、それでなくとも夢現に握った時よりだいぶ冷えていた。
 葉から落ちてくる雫さえ彼を濡らすことのないように傘を差し出せば、不貞腐れた声がした。
「だって、音や匂いでは雨を感じますけど…確かめたかったんです」
 まだ私には温度もわかるし、ほら感触だって、と。
 そう呟く彼は木に背を預けて、ぷぷー、といつもの口癖を吐きながら傘の外にと両手を伸ばした。
 目蓋を閉じて視覚以外の感覚全てで、全身で外界を捉えようとする姿に胸が痛む。
「で? さっきから何で君の方が痛そうなんですカ」
 つきりと痛む胸の布地を握りこめば、嗜めるような声音が私を苛立たせた。
「…見えもしないくせに」
 苛立ちをぶつけるべき対象は自分自身で、彼ではない。
 それでも無力な私はただただ悔やむことを止められなかった。
 包み込むことも奪うことも出来ずに。護ることはおろか、助けることすら望まれていない。
 いつまで経っても。身長が、体格が彼を上回っても。実際には彼の年齢を越えることはできなくて、私は彼にとって頼るべき対象ではないのだ。
 どうすればよかったのだろう。どうしていれば……。
「ザークシーズ…、ザクス…」
 望んで欲しいだなんて愚かな思いに囚われた私は、ありったけの思いを込めて呼ぶ。
 これではまるで駄々を捏ねる子供だ。
 困らせたいわけではない、対等になりたいのに。
 ぐずぐずとただ名を呼ぶことしか出来ない私に、息を詰めた彼は、駄目ですヨと言ってそれを吐き出した。
「ねえ。そんな風に呼ばれたら、縋ってしまうでしょう?」
 溜め息の延長のようなささやかな呟きのその意味を測る。
 ああ、これが彼なりの譲歩であっても。
 ……彼のただ一言で私はこんなにも浮上するのだ。
 ハの字に下げられた眉の下の赤が揺れて、私に僅かな希望を抱かせる。
「縋ればいい。頼っていいんだ。いや、頼って欲しい…」
 出来ることがあるのなら。
 自己満足ではなく、助けになれることがあるのなら。
「レイムさん…」
「何と言われても引く気はないからな」
 これを逃せばきっともう彼の弱音を聞くことはないだろう。
 だから引かない、引けない。
 そんな気持ちを籠めて見遣れば、俯いた彼がふうと息づく。長い前髪の隙間から見える口元が緩く歪んだ弧を描いた。
「…我儘レイム」
 じゃあ、
 そう言って伸びてきた手が眼鏡を外してきて視界がぼやける。
「今だけ。今だけです」
 レンズを通さない世界は朧気で、傘を差す私の手に掴まる左手も滲んで消えてしまった。
 けれど腕に感じた温もりが確かにそこに彼を認める。
 こつりと左腕に感じたそれは今だけは私に預けられた命の重み。
「君のその、昔から変わらない懸命さに。私はちゃんと助けられているんだよ」
 穏やかな声が深部に染み入る。
 つかの間感じた熱は、何事もなかったかのように離れていくけれど。
 そっと握りこまされた眼鏡を掛け直すことも忘れて、私は霞む視界の先を見た。
 鈍色に染まる空に隠されてその姿がはっきりと見えなくても。今はもう直接その温度を感じていなくても。
 それでもまだこの手は繋がっている。

 てのひらで確かめ合えなくても…―――。

 バサリ。傘が広げられる音がした。
 それは華奢な背中を覆い隠して、彼はまた傘を回しながら雨の中を歩き出す。
「行きますヨー」
「…ああ」
 眼鏡を掛け直せばまた世界は鮮明に映り、予想以上に開いていた距離に慌てて早足で追いかけた。
 数歩で追いついた先で彼が突然立ち止まって、落ちた沈黙に問い掛ける。
「どうした?」
「…君が…いきなり引っ張るから、方向が解らなくなったじゃないですカ」
 振り返る白い頬。不本意そうな声で視線を彷徨わせる様に、たったそれだけのことに腹の底からくつくつと笑いが漏れた。
「どこへ行きたい?」
 そう聞けば、ぱちぱちと瞬く銀色。
「どこへでも」
 綻ぶような笑顔とともに返された答えに、ではと歩き出す。
 刹那共有した滲んだ世界は終わりを告げたけれど、今この時だけは私が彼を導くことが出来るのだ。
 この夜が明ければ、彼はまた一人で歩き出すだろう。
 それでも、今は。
 彼の半歩先で先導しながら、今はただ、この重い雲の切れ間を縫って柔らかな光が差すことを願った。

 

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