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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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今回は志摩←雪のターン。
話が進んでない・・・。
次は兄さんとか金兄とか登場させたい所存。


5.混迷



小鳥の囀り、明るくなっていく目蓋の裏。
朝の匂いがして雪男は恐る恐る目を開けた。今日もそこにあったもう見慣れた光景にはあと小さく息を吐く。
隣ですやすやと寝息を立てる桜色の塊。あの日以来、こうして目を覚ますたびにそれは目の前にあって、もう叫び出しそうになることもないくらいには慣れてしまった。
けれど決して容認したわけではない。彼もそれが解っているからか、雪男が寝静まってから忍んでくるのだから性質が悪い。
最初の日と違って指を絡めていることは今のところないから、自由に布団から抜け出すことが出来るのが救いだ。
そろりと布団を出て彼が起きていないことを確認し、とりあえずと距離を取る。
寝ぼけた(?)志摩に抱きしめられた時の警戒は未だ雪男の中にある。というか、雪男にとって志摩は、人懐こいを通り越して接触過多であった。
今だって、
「おはようさん」
「おはようございます、志摩くん。…あの、離れてください」
「えー」
「えーじゃありません」
いつの間に起き出したのか、窓から外を見ていた雪男の背中に張り付いてきた志摩の手を抓る。
寒がりらしい彼はこうして雪男の背中によくくっついてくる。
ならもう少し布団に居れば良いのに、といつも言うのだが、人肌がいいそうだ。なんてはた迷惑な。
「せやかてそこに綺麗な背中があったら抱きしめとおなるやん」
というよく理由のわからないことを言ってしぶしぶ離れた志摩の髪が方々に跳ねていて、ぴよりと一際おかしな方向に跳ねた髪が気になって雪男はそれを宥めるように撫ぜる。
「ふえ?!」
上がった声に、自分の行動なのに雪男の心臓までもが跳ねた。
「…寝癖、ひどいですよ」
「ええ、そんなに?」
鏡へ向かう志摩の後姿を見ながら、平静を装いつつも雪男は心の内でまずいと思った。
雪男はどちらかといえば他人との接触は苦手な方で、べたべたとくっついてくる双子の兄とだって一緒に眠ったのはもう何年も前の記憶だ。
なのに。
自分から触れてしまうなんて。
…こんなにも心を許すなんて。
ここに来て既に数週間。雪男の知り合いなんてこの国ではこの志摩と、あとは柔造と勝呂しか居ない。忙しいらしい二人は、それでも何とか時間を作って尋ねてくれる柔造とは何度か会ったが、勝呂とはあの調停の後は一度しか会っていない。
ここでは雪男の話し相手は志摩だけで。今は雪男の世話以外はほぼ免除されているらしい志摩とは一日の大半を共に過ごしていて、その存在に慣れてしまったことに今更ながらに気付かされた。
…良くない傾向だ。
少し距離を置きたいと思っても、ここでの雪男の自由は無いようなものだ。
どんなに丁重に扱われようと、打診してみたこの北の離宮を出る許可も今のところ下りていない。有り余っている時間を有効活用すべく図書施設への出入りを打診しただけだったのだが、回答保留のまま何の返答もない。
打診の翌日には勝呂から送られてきた大量の本には彼の気遣いを感じたが、既に正十字の特殊学科も修了している雪男には今一歩踏み込みが足りないものだった。
不満を言うべき立場にないことは重々承知の上だが、そろそろ再度打診をしてみようかと、ちらと志摩の方を見た。
鏡を見ながら跳ねる髪と格闘している志摩の、自身で見える範囲は整えられていたが後頭部の髪がまだぴよぴよとあちこちに跳ねていた。
うーん、と一つ唸ってから振り返って、これでどうやと言う彼を見かねて雪男は櫛を取る。
「後ろ、まだひどいですよ。…座って」
「なん? やってくれるん?」
「…いつまで経っても終わらなそうなので」
「やった!」
勢い良く志摩が近くの椅子に座る。調度品を乱暴に扱うなと小言を言っても、はーいと笑顔で返されるばかりで、雪男は一つ溜め息をついて志摩の後ろに回った。
出会ったその日から人懐こい笑みを常に浮かべている彼は、今朝はいつも以上ににこにこと機嫌が良い。
跳ねてはいるが絡んでいるわけではない髪を梳けば、気持ちよさそうに瞳が閉じられた。さらさらと櫛通りの良い髪は、完全に癖がついていて梳いただけでは直らなそうだ。手も使って内巻きに整えていく。
ふわりとした触り心地の髪は自分と比べて細い所為か軽く、朝日を浴びていつもよりも淡い桜色がひらひらと舞い落ちる春の花を連想させた。今朝外を見た時には枝につぼみが付き始めていたなあと逡巡する。まだ開花には時間がかかりそうだが、この国に来た時には朝は霜の降りていた庭は確実に春に向かっていた。
あとどれほどの時をここで過ごすことになるのだろう。

…あとどのくらい、こうして居られる?

「どないしたん?」
いつの間にか止まってしまった手を取られて、雪男は自身の考えに首を振った。
「いえ、何でもありません」
もう良いですよ。そう言って取られた手を引けば温もりはするりと離れた。
それを残念に思ってしまった自分に何を馬鹿なことをと困惑した雪男は、鏡を見て礼を言う志摩からそっと視線を逸らした。

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プロフィール
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kao
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職業:
秘書ときどき旅人
自己紹介:
PH・青祓・幽白・炎ミラ・その他ジャンルいろいろ。
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更新は自由気まま。リンクは同人サイトに限りフリーです。貼るも剥がすもご自由に★
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