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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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志摩家×雪男の無限の可能性について貪欲に考える日々です。そんなこんなで柔雪で志摩雪(廉雪って書いたほうがいいのか?)です。
※注意※いまのところまでだと志摩雪的に辛口なお話。
最終的にどっち方向に持ってくかは絶賛考え中。
ここまででも一つのお話としてきりはいいと思うのですが、7月のオフラインで続きを書こうかなーと。
柔雪、志摩雪どっちに転んでも全員ハッピーエンドにもっていくよ!
柔雪ENDと志摩雪ENDどちらがご希望か、こっそり教えて頂けたら嬉しいです。
 ⇒志摩雪ENDのご要望が多かったので、志摩雪ENDにする予定です★


『真冬の星座』



見なければよかった。
知りたくなんてなかった。
でも一度見てしまったものはもう無かったことにはできない。
接点があるとは思わなかった二人が身を寄せ合う姿を思い出し、志摩はガンと壁を叩いた。
「いったぁ」
じくりと痛んだのは拳か、それとも。

…あんなん、見とおなかった。

走り疲れて上がった息が白く淡く消える。
真冬の外気は切れるような寒さなのに、身体なんかよりもずっと冷えた心に志摩はずるずるとその場にしゃがみ込んだ。
いたい、と見やった手の甲は赤くなっていて、ずるりと剥けた皮の隙間から僅かだが血が滲んでいた。
ああ駄目なんだ。
どんなにこの手のひらを伸ばしても。
どれだけの強い想いで見つめても。
自分では彼に触れることなどできないのだという現実に悔しさを感じて志摩は己の膝を抱きしめた。





*****





「柔兄!」
塾が終わって出た廊下に見知った影を見たその瞬間、驚きよりも喜びが勝って叫んでいた。
「おう、廉造! 元気やったか?」
数ヶ月前に分かれた時と変わらぬ大らかな笑みで手を上げる一番上の兄に駆け寄ればガシガシと頭を撫でられた。
撫でるというより掻き回すといった方が正しい大雑把な触れ方に首までが持って行かれるが、身長は大差ないのにその手はがっしりした大人の手で触れられると安心するから拒む気はしない。
「柔造やないか」
「柔造さん、お久しぶりです」
「坊! 子猫も! お久しゅう」
はしゃいで駆け出した志摩に少し遅れてやってきた二人をも柔造が撫で回す。
完全な子供扱いに照れてそっぽを向くが特段嫌なわけではないらしい勝呂に、いつも粋がっているもののやはり同じ十五の少年であるのだと思いこそりと噴出せば、ぎろりと睨まれて志摩は視線を逸らした。
まだまだ一人前とは言えない自分たちには彼は頼もしくその存在だけで安心する。
だがそれは彼が大人だからだというだけでなくて、その懐の広さゆえに、だ。
学園に来てからずっと険しい表情であった勝呂でさえ、今、柔造の前ではほっとしたような表情をしていて、志摩はやっぱ柔兄はすごいなあと思う。
柔造は志摩の自慢の兄であった。
勉強もスポーツも出来て、人当たりもよくて。いつも十歳も離れた自分を気にかけて面倒を見てくれた。
しかも志摩や勝呂、子猫丸の子供の頃は明陀は大変な時期で、そんな中でも明るく力強く自分たちを守り、導いてくれた兄。
途中から騎士團に身を置くことになった明陀において、率先して祓魔師の資格を取ったのも柔造だ。
今では上級祓魔師として京都出張所の一番隊隊長を若くして立派に勤め上げている。
面倒くさがりの自分だけれど、兄のようになりたくて、少しでも兄の役に立ちたくて祓魔師を目指していると言っても過言ではない。
明陀のためなんて綺麗ごとではなくて、ただ小さい頃から憧れた兄のように、いつか自分も誰かを守れたらいいなと思う。
誰か、というか。

…守りたいお人はもう決まっとるんやけど。

背後からコツコツと響いてきた規則的な靴音に口元が緩む。
振り返らなくてもわかる。この足音は志摩の想い人―――奥村雪男のものだ。生真面目な性格のままの足音はもう覚えてしまった。
そうだ、彼にも兄を紹介しよう。
身内を紹介するのは何となく照れくさくて、けれど面倒見のいい柔造は何かあった際にはきっと雪男を助けてくれるはずだ。
情けない話だが志摩はまだ雪男を守るような力は何も持っていない。
自分が一人前になって彼を守れるようになるまで味方は多い方がいい。思い至った考えは我ながら名案で。
「若せんせ、」
声を掛けようとした振り返った先。見たことのない雪男の表情に志摩は言葉を失った。
ただでさえ大きな雪男の瞳が、零れ落ちてしまうのではないかというくらいに見開かれている。
その視線は志摩を飛び越え柔造に注がれていた。
「柔造さん…」
「久しぶりやな、雪男」
よかったすれ違いにならんで、と志摩の脇を通り過ぎて雪男の元に向かう兄を視線だけで追いかけた。
「あれ? 知り合い? どうして?」
「雪男はもう祓魔師として仕事してんで。会うたことなんざ何度もあるわ」
そう言う間もからりと笑う兄の視線は雪男に注がれていて、相変わらずぱちぱちと瞬くばかりの雪男は無言のまま柔造を見ている。
まるで信じられないものを見たような瞳が薄く水気を含んだような気がして、志摩の心がざわめく。
「報告あってここまで来てんけど、雪男この後時間あるか?」
こくり、首の動作だけで肯定した雪男に、そうか、と柔造の眼差しが優しく撓んだ。
「ほな」
俯いてしまった雪男を余所に、くるりと振り返って柔造がこちらを見る。
「そういうわけでまたな」
「え、」
勉強きばりや! と残して雪男と連れ立って去っていく後姿に、志摩は声を掛けることができなかった。
はあ相変わらず忙しいみたいやね、と呟く子猫丸の声がどこか遠くに聞こえる。
視線の先にはだいぶ小さくなった兄と雪男の後姿。
「あ、」
角を曲がるほんの少し前。
兄の掌、が、
自分たちにしたのとは異なり軟らかく雪男の頭に添えられたのを志摩は見逃さなかった。



嫌な、予感がした。



薄暗い廊下をひたりと歩く。
立ち去った二人を追って、志摩は一つしか思い当たらない部屋を目指していた。
講師室とは別の部屋が雪男に与えられているのを志摩は知っていた。何度か講師室に質問に行ったがその度に居ない雪男に、それとなく聞いたところ別室に居ることの方が多いから質問ならそちらに来るといいと教えてもらったのだ。
そこは調剤用の部屋らしく硝子張りの戸棚がたくさん並んでまるで化学実験室のようだった。いや、まるでというか彼の持つ資格を思えばそのものか。
志摩には何だかわからない外語で書かれたラベルの貼られたボトルが並ぶ部屋へは、もう片手では足りないくらいは訪れている。
その間に他の誰かがそこに尋ねてきたことはなく、問えば他の生徒には教えていないのだと言っていた。
こんなところまで質問に来るなんて志摩くんは意外と勉強熱心なんですね。そう言う彼に意外は余計や、と返しながらも、なんだか彼の特別になったようで込み上げる喜びに震えそうになる口端を抑えるのに必死だった。
そうして少しずつ、雪男の中に入っていけたら。距離を縮めていけたらと……―――。

…居らんかったらええ。

『生徒には』志摩以外には教えていないと言っていた。
それでは『生徒以外』には教えているのだろうか。
かくしてその部屋に、二人は、

…居った。

ほんの少しだけ開いた扉の先。人影を見つけて目を細める。
けれど数ミリ開けただけの隙間では誰か居るという程度の事しかわからず、志摩は思い切ってその幅を広げた。
「……っ!」
上がりそうになった声に手で口を押さえる。
口を覆った掌が、いや、気を抜けば全身が震え出してしまいそうだった。
棚と棚の間に見えた光景は。
普段であれば雪男が使っている椅子に腰掛けた柔造の膝のその上に、雪男が座っていた。
祓魔師の重たいコートも学園のブレザーも脱ぎ捨て、学園指定の白いシャツの雪男の肩が小さく揺れている。
先ほど限界まで見開かれていた瞳は今は逆に閉じられ、長いまつ毛の先からその顎先までを透明な雫が伝っていた。
照明にきらりと光った涙はまるで彼の心が溶けてあふれ出したようだなんて思う。
雪男の整った顔は泣いていても綺麗で、そんな場合ではないのに志摩は見とれてしまう。
けれど、

…これ、なんや。

柔造がよしよしと慰めるように雪男の頭を撫でている。それはまるで小さな子供をあやすような優しい仕草であった。
自分も子供の頃にはああやって兄の膝の上で慰めてもらったのは覚えている。
だが、柔造と雪男は兄弟ではないし、志摩が兄にああやって慰めてもらったのだってもう何年も前の話だ。
だとすれば、この光景はなんだというのだ。
混乱する志摩の視界で、優しく雪男の頭を撫でていた柔造の指先がすいと動く。
指先が雪男の涙を拭って、それにぱちりと雪男が瞳を開いた。
水気を帯びた碧は自分の知っている色とは違う。
いつも真っ直ぐに前だけを見ていた瞳が、あんな風に揺れるなんて自分は知らない。
じわり、また溢れてきた雫を、今度は柔造が唇で拭った。
大人しくそれを受け入れた雪男が柔造の首にしがみついて、


そこで、志摩の記憶は途切れた。


衝動的にその場を離れた志摩は、いつの間にか走り出していた。
無心に走って走って…
それでも無意識に自分の寮の方角へ向かっていたらしい。
見慣れた灯りを見つけて、志摩は、は、と近くの壁に寄りかかった。

あれ、は、
確かに兄と雪男だった。
でも、
あの行動、は、

「いや、や」
その先を考えることを、理解することを脳が拒んだ。
全身の震えが止まらないのは身を切る外気の所為ばかりではない。

「なんで…、なんで柔兄なん…!」

ずるりとしゃがみ込んだ志摩は、抱えた膝に顔を埋める。
なんで、どうして。そればかりが頭を巡った。
考えたって答えなんて出るはずもないのに、ぐるぐると止め処ない問いが溢れてくる。
「っくしゅ」
どれだけ時間が経過したのか。冷えた身体が悲鳴の変わりに吐き出したくしゃみに、志摩は俯いていた顔を膝から上げる。
芯まで凍えた身体に鼻水まで出てきて、ずっと鼻を啜った。
「かっこわる…」
眼前に広がる、星の出てきた空をぼんやりと見上げた。
そこに見えた志摩の唯一知る冬の正座。三つ並んだその星の、均整の取れた美しい配列に雪男を想う。
綺麗な空の星には手を伸ばしてみても届くわけなんて無くて。
そんな事は知っていた。
けれど、
いまはとどかなくても、いつか、なんて。
…向き合いたいて思たのなんて、生まれて初めてやったんや。
雪男に向かう感情は、女の子に向けるようなほわほわした気持ちではなかったけれど。
どこか危うい彼の、悩みを取り除いてやりたくて。表面だけの笑みではなくて、本当の笑顔も、弱いところも、全部見せてほしいと願った。
なのに。

自慢の兄と、生まれて初めてすきになったひと。

…どっちも嫌いになんてなれへん。
知ってしまった後もどちらに向ける気持ちも変わらない。
だから自分は、きっと。
祝福することも、諦めることも、出来ない。

「…どうしたらええんや」

自分の心のはずなのに、複雑すぎて手に負えない。
どうしようもない気持ちを抱えたまま、志摩は目を閉じた。
 

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