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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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昨日の夜上げるはずが、しぶに上げて力尽きたバレンタイン話。
揺ぎ無い雪燐雪(兄弟愛)が根底の志摩→雪のお話です。
暗くはありませんが片想い状態で・・・志摩くん、最近両想いな話を書いてあげてなくてごめんね。
メイン志摩→雪、おまけで私にしてはラブめの奥村ツインズとなっておりますです。

ところで、「『真冬の星座』を志摩雪に持ってく!」って宣言した途端に、柔雪派さんとか、まだ選べてない、どっちも書けばいいじゃない、という方からスイッチを押して頂き・・・
ご意見あれば今からでもお気軽にお知らせくださいなっ(`д´)ノ
 



『ましゅまろちょこれーと』



その日、志摩はとてつもなく腹が減っていた。
まず前日の夜更かしがたたって寝坊して朝食抜き。バタバタと支度をして学校に行ったものだから忘れ物をしてしまい、しかもそれが誰かに借りられるようなものではない『塾』の教科書であったから昼休みに寮に取りに帰ったら、そんな日に限って少し出遅れて行った購買は売り切れ。食堂はあるものの庶民的ではない値段に、これだけあれば三日分の昼食が買えると気が引ける。かといって他に買いに行くような時間もなく、すきっ腹を抱えながらの午後の授業はまったくもって身に入らなかった。
…切ない。
空腹というのは切ない気持ちになるものだ。育ち盛りの高校生男子にとってそれこそ死活問題に値する。けれどHRの後から塾の開始時間までにもさほど間はなく、志摩は仕方なくよろよろと塾の教室へ向かった。
はずだったのだが。
漂ってきた甘い匂いにつられて志摩は無意識のうちにその見知らぬ扉を開いていた。

「…って、ここどこですのん?」

まるで化学の実験室のような佇まい。しかし学校の実験室と違って何やら怪しげなものがたくさんある。そしてさほど広くもない部屋であるのに、そこかしこにぶら下がる薬草やら積み上がる本やらでえらく視界が悪い。
そんな中には不釣合いな、志摩を誘惑した甘い匂いが充満していた。
すんと匂いをかいだ志摩の腹がぐうと鳴った。

「志摩くん?」

「あれ? 若先生」

視界の隅からひょこりと顔を覗かせたのは、同い年の塾の先生、奥村雪男。

(なんやよお解らんけどラッキー!)

先ほどまでの絶望的な気持ちとは打って変わって、志摩の心に日が差した。
にこ、と余所行きの笑顔を纏った雪男は、それが誰にでも向けられるものだとわかっていても充分に他人を魅了する。
それこそ志摩にとっては、今日の不運もこの思いもよらない遭遇で帳消しになるほどには好きな相手だった。
一年近くもの時間を知り合いとして過ごしているというのに謎が多く、けれど双子の兄やごく偶に慣れ親しんだ者だけには向けられる本当の笑顔の柔らかさだけでも好きになるには充分だった。
いつか自分にも自然にそんな笑顔を向けて欲しいと密かに想う相手に会えたことで、志摩はほわりと広がる胸の熱にああ今日はいい日だと単純に思った。

「なんでこんなところに居るの?」

こんな僻地がよくわかったね、とそこかしこに散らばる本やら何やらを乗り越えて近くまでやってきた雪男はこの寒い時期なのに袖を捲っていた。
いや寒い時期も何も関係なく常にきっちりと着込まれている制服やら祓魔師のコートやらの装備がない雪男に、志摩はあんぐりと口を開けたまま固まった。
夏の合宿でも見たはずの白い腕は久々に見てもやはり白くて、銃器を扱う人間らしく鍛えられているというのに細い手首と滑らかな肌にどきりとする。よく見ればネクタイも外されていた。襟元から少しだけ覗く白と腕が同じ色をしていて、見えないところも同じいろなんだろうかと考えた。

「…志摩くん?」

ぼんやりと雪男の襟足を眺めていた志摩に怪訝な声が掛けられる。しまったと自分の怪しい行動を鑑みて、志摩は努めて明るい声を出した。

「あー…と、ええ匂いにつられまして」

「わ、そんなに匂ってました?」

「今日俺腹減りで。釣られてふらふらと来てしまうくらいには」

廊下にまで漏れ出ていた甘い香り。

「えらいチョコの匂いしますけど…」

ただ置いててもこんなに匂わんでしょう? 何してますのん?
窓の少ない塾の構造から、知らない場所に迷い込んでしまうくらいには施設内に充満していたことを指摘すれば、雪男は大丈夫かなあと呟いていた。

「…やっぱりチョコってばれるよね」

作業台を見れば、バットの上に茶色い塊が並んでいた。
形がひどく不恰好だが、それはつまり…

「もしかして、それ、先生が作らはったん?」

「ええ」

「若先生、料理苦手やありませんでした?」

「溶かして固めるだけなら僕だって出来ます」

「はあ」

そらそうや。流石に俺でも出来るしな、と志摩は思う。
けれど、理由がわからない。
視線に疑問を乗せれば、チョコレートと雪男を行き来してぱちぱちと瞬く志摩の疑問を正確に読み取った雪男が苦笑していた。

「…明日はバレンタインでしょう。毎年、修道院のみんなと交換してるんです」

修道院に居たころは感謝の気持ちを伝える日としていました。
そう告げながら少し恥ずかしいのか頬を染める雪男に、ふつりと志摩に負の感情が湧き上がった。
…修道士め。
そうそれは紛れもなく嫉妬だ。兄だけではなく、見知らぬ人間にまで嫉妬する日が来るとは。毎年雪男からチョコを貰っているなんて、なんて、
…羨ましいっ!
義理だろうと感謝の気持ちだろうと何だろうと、羨ましいものは羨ましい。
しかしよくよく考えれば、それどころか生まれてすぐに修道院に引き取られたと言っていたから、志摩の見知らぬ彼らはその他にもあーんな雪男やこーんな雪男を見ているに違いない。
風呂上りの雪男。眠る雪男に寝起きの雪男。
…あ、扉を開けてみたらどっきり着替え中の若先生とか。
などとよからぬ方向に志摩の思考が流れ出した時、

「よければお一つどうぞ?」

湯煎したチョコにマシュマロを混ぜただけですが。
そう言って差し出された塊に一瞬志摩の時間が止まる。

「ええの?!」

雪男の言葉を頭が理解した途端、志摩は身を乗り出した。

「ええ。本当に混ぜただけなので、普通に美味しいはずです」

どうぞ、と再度勧められて、志摩は震える指先で小さめの塊をつまむ。
…若先生の手作り。混ぜただけだろうと何だろうと、これは正真正銘若先生の手作り。
そう思うだけで志摩の口にじわりと唾液が広がる。ごくりと唾を飲み込んで手元の塊をまじまじと見た。なんだか食べるのが勿体無い。でも目の前に雪男が居る以上食べないわけにもいかない。うううと心の内だけで唸り短い葛藤をしていれば、ぐうと空の腹が鳴って胃腸が食物を催促した。あ、そういえば腹も減ってたんやったと思い返した空腹に志摩は、食い物は食ってなんぼやと、えいやっとチョコを口に放り込んだ。

もきゅ。

パキリと砕けるチョコの隙間から、柔らかなマシュマロの食感がする。
どちらも甘く溶けるのは変わらないが、二つの異なる食感に志摩はむぐむぐと口の中のそれをかみ締めた。

「変わった食感やけど美味しいわ」

「でしょう? でもマシュマロにチョコレートってなかなか売ってないんですよね」

兄さんが昔から好きで。だから毎年作るんです。
そう言うのにやっぱり妬けてしまうが、その笑顔が常よりも柔らかいものであったからまあいいかとも思う。
兄には明日まで内緒ですよ? なんて、悪戯に笑う顔は初めて見るもので。そんな小さな二人だけの秘密を明日までの期間限定であっても共有するのがこそばゆくて、志摩も笑みを浮かべた。





「…ところで、ここからってどうやって帰ればええんですか?」

「鍵を使えばいいんですよ」

「そうやった」

ここがどこであろうと使えば塾直結の便利な鍵の存在に、言われて初めてポケットの冷たい感触を思い出した。今日二度目になるそれを使おうと内ポケットに常に携帯されている鍵を取り出して志摩は掌で弄ぶ。
二人の時間の終わりを名残惜しく思いつつ、そろりと見上げた壁掛け時計は授業開始の五分前を指している。
捲っていた袖を伸ばしてネクタイを結びブレザーに手を掛ける雪男に視線で促されて、後ろ髪を引かれる思いで志摩は鍵を差し込む。キイン、と独特の音がして、扉が見慣れた廊下に繋がった。

「ほな、お先」

「ええ。では塾で」

ちらと振り返った先。
コートを羽織りながら綺麗に笑う顔が見えなくなって、閉じた扉に向けて志摩は止めていた息をは、と吐いた。

「…なん、今の笑顔」

今まで見たどれとも違う笑顔に、服を着ているところというシチュエーションが先ほどの妄想と相まって志摩の脳みそがプスンと音を立てた。
夢のような時間は短くて、いや本当に夢だったんじゃないかなんて思う。
けれど教室に入ってきた雪男からほのかに香ったチョコの匂いに、口腔に残るチョコの甘さに、あれは夢じゃなかったんだと頭に血が上った。
垣間見た雪男の新たな一面を思い返して頬を赤らめる志摩だったが、けれど別段二人の距離が縮まったわけではないことに落胆もした。

「あ、」

しかし思い返して気付く。
バレンタイン用のチョコを貰ってしまったのだ、自分は。
前日ではあるけれど。本人にそんなつもりは毛頭ないのはわかっているけれど。
…お返しは何にしようか。
お返しを渡したら今度はどんな顔を見せてくれるのかと、志摩は一月後を楽しみに思った。





(to be・・・?)



◆おまけ(当日の奥村ツインズ)



「はい、兄さん」

バレンタインという世間では女子の行事に兄弟でチョコレートを交換するのは毎年のことであったが、それでも何となく照れてしまって雪男はそっけなくそれを燐の机に置いた。

「お、ありがとな! ほれ、俺からも」

対して、笑顔で受け取った燐はやはり用意していたチョコレート菓子を雪男に手渡す。
つい先ほどまで厨房に篭もっていた燐が作ってくれたたのは、一口サイズの生チョコレートだった。
兄から貰う物は何でも嬉しいし、兄の作るものは何でも美味しいと思っている雪男だったが、食べやすくカッティングされたそれに最近疲れた時に一口サイズのチョコレートを少しずつ摘んでいたのを見て作ってくれたのかもと、何気に気遣いをする燐に顔には出さずに感謝する。

「ありがとう」

本当はもっと感謝を伝えたいのだが、長年隠していた祓魔師としての自分を見せてからは何となく素直になれていない。
最低限の感謝の言葉を投げて、去年の今頃はもっと素直に気持ちを伝えていた気がするのにと雪男は心の中でだけ溜め息を吐いた。
あの頃から兄を大切に思う気持ちも変わっていないものの、今は『本当の自分』が相手にも知れたことで自分の立場を自覚してしまった。
自分は既に資格を持った祓魔師で、生徒を指導する講師で、責任のある立場だ。
…それから、兄さんの監視役、で、

「お、今年も作ってくれたんだ!」

色気もなにもない透明なビニールに入れただけのチョコを燐が嬉しそうにつつく。

「…チョコにマシュマロって組み合わせ、売ってないから」

早速包みを開けて一つ頬張り、これこれ!とはしゃぐ燐が本当に嬉しそうな顔をするものだから、つられて雪男の頬も緩む。

「うっめえ!」

「…混ぜただけだけどね」

それでもやはり素直にはなれずに、喜んでもらえて嬉しい、と返せない雪男は、見やった先の燐にぱちりと瞳を瞬かせた。

「うんでも、料理苦手なお前が毎年これだけは作ってくれてさ」

思いの他真剣な眼差しとかち合って、え、と着いていた肘から頬を持ち上げる。

「去年の今頃はお前は俺とは違う『普通の生活』をしていくんだと思ってたのに、お前は俺のためにずっと努力してくれてて。
それなのに、忙しいのにいつもと変わらずにこれ、作ってくれてさ、すげぇ嬉しい!」

まばゆいばかりの笑顔で告げられて、言葉で言わなくてもわかってくれる双子の兄に安心する。
それに甘えてばかりでは駄目だと思っても、いつも自分からは言えない言葉をくれる兄に、結局は気持ちを伝えられないままの自分を思い返して雪男は手元のチョコレートに視線を落とした。
同じく貰ったチョコレートを一つ口に含んで、淡く消えた甘さに今なら少しだけ素直になれる気がして雪男は感謝の言葉を紡いだ。

「兄さん、僕も…―――」





(Happy Valentine's Day!)
 

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