連続投稿サーセン。
恥ずかしいものは思い切って上げないと、いつまでたってもUPできないのです。
というわけで、またもやパラレルで
『この夜を止めて』 『蜂蜜の結婚』と同設定のブレイク人外ものです。
注意:1つ前の『蜂蜜の結婚』を読んでからお読みください。
まったく需要のなさそうなシャロ→ブレ話ですが、どこまでいっても根底はレイブレです。
もう少し続きますので、この先を読もうかな?という方には一応目を通していただけると伏線も繋がるかもしれないという不親切な代物w
↓では、上記注意+パラレルOKの方のみ続きからどぞ。
『遠い街で』
何ヶ月も前から忙しく準備をしていたのに。
前日ともなれば意外にももうすることもなくて、ぼんやりと用意したそれを見つめる。
視線の先に飾られているのは真っ白なドレス。
小さい頃からいつかと憧れた純白の美しいドレス。
私は明日、これを着て旅立つ。
私は明日、嫁いでいく。
彼は私を愛してくれているし、私も彼を嫌いではない。
彼と結婚する、そこに後悔はない。
けれど、
コンコンコン
ノックの音に思考が途切れる。
「シャロン様、入ってもよろしいでしょうか?」
聞きなれた低い声が、彼ではなかったことに落胆した。
いや、ほっとしたのかもしれない。
「どうぞ、レイムさん」
「朝早くから失礼いたします」
扉を開けて一礼する彼が、ちらりと私の後ろのドレスを見やった。
寄せられた眉は一瞬で元の表情を作ったが、ああ、彼の嘘が吐けないところは昔から変わらない、と思う。
「ご結婚前の忙しい時に済みません」
「いえ、実はもうやることがなくなってしまって。退屈していたところなんですよ」
よろしければお茶を一緒に、と誘えば、それではと準備をするレイムさん。
長年を共に過ごした友人であるというのに、彼は使用人という立場を崩さない。
貴族として育ってきた私も、それを甘んじて受けることに慣れすぎていて、少しだけ悲しくなる。
私は結局、自分の’立場’を捨てることができなかった。
レインズワース家の長女という立場を、責務を、それに伴う様々なものを、捨てることができなかった。
「実はちょうど、お土産にケーキを持ってきたのです」
そう言って目の前で微笑む彼のように、私が第二子であったなら。
何か変わったのか、と考えるなど詮無いことだ。
むしろこの決意(結婚)は、私の立場が後押しをしただけで、私自身が望んだこと。
けれど、ふと意地悪な気持ちが芽生える。
「まあ。結婚前日の身としては、悩む誘惑ですわね」
「し、失礼いたしました」
用意したケーキをどうするかと慌てる彼。
チョコレートではなくフルーツタルトではどうかと勧める姿に、衝動的に感じた意地悪な気持ちもすぐに飛散したが。
「冗談です。ケーキが無ければお茶の楽しみが半減してしまいますもの」
さあ、紅茶が冷めないうちに頂きましょう。
そう言えば、はい、と言ってレイムさんが目の前の席に着く。
他愛のない会話。
懐かしい思い出話。
私達の会話には外せない彼の名前に、時折胸が痛んだけれど。
愛しい思い出。愛しい名前。愛しい貴方…---。
時間を忘れて話し込めば、すっかり日も高くなっていて。
これからはそう頻繁には会えなくなるけれど、落ち着いたら手紙を書きますから遊びに来て下さいね、と結ぶ会話。
それではと退席を申し出た彼は、しかし扉で立ち止まった。
何かに迷い、口を開いては閉じ、それでもその言葉はついに音にされた。
「シャロン様。本当にこれでいいのですか?」
ああ、言われてしまった、と思う。
きっと、レイムさんが今日一番私に伝えたかったこと。
そして私が逸らしてきた話題。
「あなたは、ザークシーズを…」
「後悔など何もありませんわ」
強く、彼の言葉を遮るように言った。
にこりと笑みさえ浮かべて私は応える。
注がれる真っ直ぐな視線が痛くて、見透かされるようで。
けれどただ逸らすのはこの気持ちを認めてしまうことになると思った私は、掛けてあったドレスへ近づいた。
「それにね、レイムさん」
つるり、手触りのいい布を撫ぜる。
光沢のあるそれは午後の光を反射して、オーロラのように光った。
何色にも見えるそれに、ふっと、彼には、同じ想いを抱えているだろう彼にだけは、
一つだけ、真実を告げてしまおうかと思った。
「私は逃げるのです」
迷った末に伝えた真実に、息を飲む音。
「ねえレイムさん。ブレイクは…13年前のあの時、あのまま死んだ方が幸せだったのでは、と私は偶に考えるのです」
「そん、な、ことは」
「ないとは言えないでしょう?」
「……っ」
嘘を吐けないレイムさんが、言葉を噛む。
「こんなことを思う私には…彼を愛することはひどくつらい」
常におどけた笑顔を貼り付ける彼がふと見せる切ない顔。
眩しいものを見るように、私達の成長を見守る彼。
何かを諦めたような、そんな顔を見るのは、もう…---
きゅ、と床を擦る音。
礼儀正しい彼が、らしくなく走り去る気配。
視線を送った先には、開かれたままの扉。
誰も居ないそこを見て、は、と詰めていた息を吐く。
同じ想いを抱えているはずのレイムさんが、それでも事ある毎に私の後押しをしてくれていることには気付いていた。
それは私のためというよりは、生きることに執着がないようなブレイクを変えたかったのかもしれない。
それは私も同じ。
彼に’生きて’欲しくて。
心から笑って欲しくて。
そんな風に儚げに笑わないで。
過去にとらわれないで。
今同じ時を生きている私を見て、と。
でも、純粋に彼を愛していると思えた期間はとても短くて。
私の彼への想いにはいつも後悔が付きまとっていたから。
きっと彼は気付いている。
私の想いにも、
…私の葛藤にも。
だから離れると決めた私の決意は間違っていない。
そう、思うのに。
ああ、せっかく。
明日のためにと、肌も髪も整えてきたのに。
これでは今夜は眠れそうにない。
もう後戻りは出来ないというのに。
もう心は決まっているのに。
「レイムさん、出来ることなら貴方は彼の傍にいて。私は…」
私は、
遠くから彼の幸せを願う。
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