長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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柔雪で雪ちゃんが志摩家に嫁入りして、雪ちゃん取られた金造や廉造が柔造とどたばたすれば楽しいじゃない。っていうひどい妄想。 1.
トントントン
控えめな包丁の音が朝の空気に溶けていく。 平素であれば母親が立っているはずのその場所にはここ最近はずっと別の人物が立っていて、けれど何度見ても見慣れなくて。 早起きが何よりも苦手なはずの自分が、つい確かめるために起き出しては覗いてしまうくらいの違和感。 「あ、おはようございます」 「…おはようさん」 にこり、と爽やかに朝の挨拶をする彼とは対照的に、起き抜けの乾いた口で返して志摩はぱちぱちりと瞬いた。 「「「「「「いただきます」」」」」」 「うわっ、美味っ!」 「今日のお味噌汁も美味しいな。やっぱり出汁からちゃんととると味が違うわ」 「朝からこんな丁寧な味噌汁飲めるなん幸せや」 「こんな出来た嫁さんが来てくれるなんて、柔造生んだ甲斐があったわあ」 「せやろ!」 「ありがとうございます」 「…………」 騒がしい家族の中にあってほわりと異彩を放つその人を味噌汁を啜りながら廉造は複雑な想いで見つめる。 この中で唯一苗字が違うものの既に家族の一員として認められている、ほんのり頬を染めてそれはいい笑顔をする彼、奥村雪男は先月からこの志摩家に滞在していた。 いや、滞在というか、完全に同居状態だ。 廉造の初恋の人である奥村雪男はあろうことか今、 …若先生が柔兄の嫁さんなんて、だれか嘘やて言って。 そう、あろうことか。 高校三年間、廉造が想いを寄せていた人は、兄嫁となっていた。 三年間募らせた恋心を後生大事に抱えていた廉造は、男同士という壁の前に気持ちを伝える勇気もなくただ卒業したらもうそう簡単には会えなくなるのだと一人完結した想いを飲み込んで生きていた。 会えなくなることはつらいが、この想いを抱えたまま彼に会うこともつらい。そんな板ばさみの気持ちの中、それでも恋という甘酸っぱい感覚は、青春の一ページとして胸の奥に仕舞われるはずだった。 だってもうすぐこの甘い胸の痛みともお別れだ。そうしみじみと思っていた卒業間近のあの日。 すでに高校も塾も授業は終了していて自由登校。進路としては京都に戻って春からは祓魔師として働いていくことが決まっていた志摩は、未だ受験に追い立てられる同級生を横目にさて卒業式までは少し羽を伸ばすかと寮でのんびりしていた。 同室で同郷の二人も同じく春からは京都に戻ることになっていて、しかしだらける誰かさんと違って自由登校日にもしっかりと学び舎に行っていて廉造は部屋に一人きり。 ぼんやりとまだ寒い冬空を眺めていたとき、携帯が聞きなれないメロディを奏でた。 その人のためだけに設定して、けれど鳴ったことなど片手で足りる音楽に、廉造は浮き足立った。 どきどきと通話ボタンを押せば、今から会えないかと言ってきた雪男に二つ返事で返して、速攻準備をして指定の場所へ向かった。 呼び出された先に居たのは、若先生、と、 「柔兄? なんで居るん?」 「あー、それはやな…」 「柔造さん、僕に言わせてください」 なぜか言いよどむ柔造に被るように雪男が言った。 「あのね、志摩くん」 どこか言い難そうに言葉を選んで紡ぐ雪男は緊張した面持ちで、廉造も何となく背筋を伸ばす。 「来春から、京都の大学へ進学することになりました」 「え?! 先生、京都に来はるん?」 「はい」 「じゃあ、卒業しても会えるんやな?」 「…そうですね。というか、それで、ですね、」 もう接点のなくなると思っていた雪男との繋がりに、先ほどまでしみじみ冬空を見ていた哀愁など何のその、廉造の胸中に春風が吹く。 不自然に言葉を切る雪男にも構わず、ぱあっと廉造の顔に自然と笑みが広がる。じわじわと込み上げる感情を抑えきれなかった。 それを見た柔造が顔色を変えた。 「まさか廉造…雪男待ちい!」 「僕、志摩くんのおうちにお婿に行ってもいい?!」 二人同時の叫びに、廉造の思考が一時停止する。 「…へ?」 被さった二つの言葉は両方とも聞き取れたものの、理解が追いつかない。 …ええと、婿って、…誰の? 「あー…、あのな、廉造。もっと早う言おう思ってたんやけどな。俺と雪男、付き合うとるんや」 そいで雪男が卒業したら一緒に暮らそ思っとるねん。いつでもはっきりと物を言う兄にしては消え入りそうな声で言われたその意味がわからないほど廉造は子供ではなかった。 たぶん兄は廉造の気持ちに気付いてしまって、 緊張の面持ちで廉造の顔色を覗う想い人は全く感づいていない。 「…ええですよ」 その言葉は自然と廉造の口を吐いた。 「本当に?!」 ほっと息を吐く柔造と無邪気に喜ぶ雪男を目の前に、なんとも言えない気持ちを抱えながら、ははと乾いた笑いを貼り付ける。 「志摩くん、ありがとう!」 駄目だなんて言えるはずがなかった。 あろうことか。片想いをしている三年間、ずっと、彼は柔兄と付き合っていたというのだ。なんだ男もオッケーだったのか、とか。悩んでいた自分がアホみたいや、とか。三年前て十五歳と二十五歳てそんな柔兄犯罪やん、とか。 思うところは沢山あったが、 …柔兄と居るとき、いつもの三割増に笑顔が綺麗だなんて詐欺だ。 今も仕事場に向かう兄を玄関まで見送る横顔が眩しくてたまらない。 高校時代もっと近くにと、もっと笑って欲しいと切望した綺麗な横顔がすぐそこにある。 幸せなんだかつらいんだかよくわからない状況に、廉造はそれでも目を逸らすことが出来ずに居た。 PR |
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プロフィール
HN:
kao
性別:
非公開
職業:
秘書ときどき旅人
自己紹介:
PH・青祓・幽白・炎ミラ・その他ジャンルいろいろ。
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