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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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残念なことに続いちゃったエセファンタジー。
前回の「始まりの日」を読んでいないと全くわからないという読む方に優しくない話ですみません。
先週燐雪に志摩雪よりたくさん拍手頂いたので・・・燐×雪じゃないけど安定ラブラブ(?)の兄弟です。
燐がお兄ちゃんしてて、雪男も兄さんが大切というのが私の基本。
そしてついに、柔造さんを登場させてみた。どきどき。


2.



普段であれば静かな冬の朝。
聞こえるものといえば鳥の囀り、風のそよぎ、そして心地良い歌声のはずであった。
燐はいつも弟の歌声で目覚める。
養父である獅郎の後を継いで神官となった弟が城の地下にある水脈から禊の最中に神に捧げる声音は、朝の静まり返った中においてはこの小さな居城の最上部まで響いた。
不思議なことばで紡がれるその歌の内容は燐には理解できなかったけれど、聞いているとなぜか心が穏やかになる。
朝の祈りを終えて戻ってくる弟のために朝食を用意するのが燐の日課だった。
しかし。
その日、燐を目覚めさせたのは派手な轟音であった。
飛び起きた燐が部屋の窓から見やれば、警備もろくに居ない城の門が無残にも砕け散っていた。
黒い煙が立ち昇りその先は見えない。
「お前ら、さっさと中へ入れ!」
咄嗟に庭に居る数人に向かって叫ぶと、唖然と壊された門を見ていた者たちがやっと入り口へと走り出す。
城の中へ逃げ込んだところで彼らには武器どころか戦う術もないが、相手の意図がわからない以上無防備に目の前に在るよりはましだろう。
寝巻きの上にそのままコートを羽織りながら外を見ると、見たことのない大きな乗り物が門を越えてくる。
「なんだ、あれ」
ゆっくりとしたペースでそれは瓦礫の上をものともせずに進んでくる。
ドンッ
重たい音と共に振動が襲った。
「なっ」
揺れに窓枠を掴んだ燐の視線の先で、あっけなく正面扉が半壊する。
立ち上る煙の先に武器を携帯した一団の姿が見えて、燐は総毛立った。
「雪男…!」
このままではあっという間にここに進入してくるだろう敵に、今時分であれば地下に居るであろう雪男の安否が頭を過ぎる。
常に携帯している剣を手に、燐は階段を駆け下りた。ほんの四階からの大して長くも無い距離が長く感じる。ようやく一階に差し掛かった時、ゴウンと大きな音がして爆風が燐を襲った。
「っ!」
思わず顔を庇ったものの、飛んできた破片が頬を裂いた。
パラパラと吹き飛んだ木材が降り注ぐ。
ホールには瓦礫が散乱し、ところどころでパチパチと小さな火が燻っている。
誰一人として人は倒れていないが、降りてきた階段では誰ともすれ違ってもいない。
…まさか。まさかまさかまさか。
目の前の光景にかっと頭に血が上り、押さえ切れなかった炎がゆらり、漏れた。
「あいつら許さねぇ…」
ぎゅ、と一度、決意をするように厳重に袋に収められた剣を握り締め、口紐を解き袋を床に落とした。
その時、
「兄さん! 駄目だよ!」
今にも駆け出そうとした燐を止める声が響いた。
朝の禊の最中であったのだろう、濡れた衣服にコートを羽織っただけの姿で雪男が駆け寄ってくる。
無事であった弟の姿にほっとするも、飛びついてきた雪男に剣を押さえられむっとする。
「何で止めるんだよ! 今の俺ならあいつらを蹴散らせる!」
「その力は誰かを傷付けるためのものじゃないって、養父さんも言っていただろ!」
「今戦わなくてどーすんだよ!」
「戦ってどうするんだよ! 今、兄さんがその剣を抜いてこの場を凌いだとしても、狙われるのは今回だけじゃない!」
雪男は外で学んだ数年で、世界には争いが満ちていることを知っていた。
いつか、こんな日が来ることもわかっていた。…こんな日が来ないことを祈っていた。
「…戦えば次の争いが待ってるだけだ」
「じゃあどーすりゃいいんだよ!」
そんな遣り取りの間にも、煙の先からぞろぞろと男たちが侵入してくる。
「軍旗を見て。あれは京の…勝呂くんの軍だ。殺されはしないよ」
「勝呂の…」
確かにあれだけ派手に門を壊しておいて、人に手出しはしていないようだった。
けれど相手が勝呂だというのなら尚更。
…この国が武装していないことを承知の上で踏み荒らしているのだ。
住民は逆らうべき手を持たない。ただ戸惑う民を散らして進む侵入者に完全に燐の頭には血が上ったままだ。
「大丈夫、みんなは地下に避難させたから。…ね、兄さん落ち着いて…」
コートの前も閉めていない格好で、冷たい雪男の掌が燐の手に重なったまま震えている。その必死さにやっと燐に冷静さが戻ってくる。
寒いだろうに、と震える指を解いてボタンを閉めてやると、ぎゅうと首に抱きついてきた。
「お願い。決して炎を使わないと約束して」
ぼそりと小さな声が燐の耳元に落とされた。
いつのまにか燐の身長を追い越していた弟の、けれど細い背中を安心させるようにとんとんと叩く。
「…………」
―――外の者には決して俺たちの『力』を見せるな。
それは幼い自分たちに代わって国を守ってきた獅郎の遺言。
この国の民の『力』が異端だということは燐も承知している。異端が集団から弾かれるのだということも己の身を以って知っていた。
けれど、
完全に周囲を囲まれた状態で、今更抵抗をする気にもならないけれど。
…ごめん親父。こいつらが雪男を傷付けようとするなら、俺は誰を敵にしようと炎を使うよ。
たとえ世界を敵に回したとしても、これだけは譲れない。それが雪男の願いであってもだ。
返答のない兄に、雪男がなお言い募る。
「お願い、兄さん。勝呂くんならきっと悪いようにはしない」
確信というよりは願いを込めて言葉にした雪男をそっと抱きしめる。
その肩越しに取り囲む男たちを睨みつけると、後方から声を掛ける者があった。
「せや。悪いようにはしいひんから大人しくしとき」
燐と雪男を取り囲む兵を分け、軍服を着崩して肩に錫杖を携えた男がこちらにむかってゆっくりと歩いてくる。
不敵な笑み、服の上からもわかる鍛え抜かれた身体。その男は明らかに雑兵とは異なる他者を威圧する風格と威厳を携えていた。
「柔造さん…」
「久しぶりやな、雪男」
しゃらん、と地についた錫杖が鳴る。
雪男とは知った仲である志摩柔造がにかりと白い歯を見せて笑っていた。
まるで偶然旧知の友に会ったかのような挨拶であった。だがこの男こそ目の前の惨状の元凶なのだ。
知った顔に明らかに雪男の緊張が和らいだが、燐は警戒を解かない。手を伸ばせば触れられる距離まで近づいてきた柔造から、雪男を遠ざけようと背に庇った。
そんな一連の遣り取りを見た柔造がふっと笑う。
「悪いが、竜士さまの言いつけやからな」
「え?」
「痛っ!」
背に庇ったはずの雪男が燐の目の前に居る。
燐を軽々と押しのけて、あっという間に柔造が雪男の手首を掴み上げていた。
「雪男を放せ!」
大切な弟を奪われて、燐の顔が憤怒に染まった。
だが柔造はそんな燐を見ても顔色一つ変えなかった。


「さあ王様。城下に出て、負けを宣言してもらおうか」

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プロフィール
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kao
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非公開
職業:
秘書ときどき旅人
自己紹介:
PH・青祓・幽白・炎ミラ・その他ジャンルいろいろ。
長年燻っている想いからその時々の、萌えの欠片を集めました。
更新は自由気まま。リンクは同人サイトに限りフリーです。貼るも剥がすもご自由に★
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