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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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オフライン用にパラレルでも、と思って考てたんですが、短く纏められそうにないので没にしたネタです。
人質な雪ちゃんが書きたかっただけ。
それから色んなキャラを登場させたいなー、と。
志摩家との絡みとか書きたい!
激しくパラレルですので、大丈夫な方のみ続きからどうぞ。
設定も格納してます。


1.



かの国は深い山奥にあった。
民は短い夏の間に農耕をし食物を貯え、長い長い冬はそれを食しながら細々と夏より更に短い春を待つ。
他国との関わりは一切なく、いや、山を降りた先に別の国があることなども知らず、まるで国全体が家族のように寄り添って暮らしていた。
王国とはいえ王族など名ばかりで、王も王妃も民とともに働き、苦楽を共にする。
大きな争いはなく、穏やかに平坦に過ぎ行く日々に感謝して、生きて、死んでいく。
そんな平穏な暮らしがそこにはあった。
そう、十五年前までは……―――。





*****





白一色で構成されたその服は、まるで花嫁衣装のようだった。
彼の国のものだという見慣れないその衣装は、彼が立ち上がっただけで長い裾がふわりと絹よりも軽く宙に舞う。
一瞬、中性的な貌とほっそりとした背中のラインに女性ようにも見えたが、立ち上がったその高い身長と優しげな眼差しの奥の強い意思から確かに彼は男性だと志摩は思った。
白い服、白い肌。まるで色素を感じないそこに浮かぶ深い碧に白いヴェールを被せてしまえば、ああ本当に花嫁のよう。
これから彼が向かう先はそんな幸せの場ではないのに。
それでも極力彼の容貌が広がらないようにとこのヴェールを与えた志摩の主の温情を思えば、死地ではないと言えるだろうか。
「ほな、いきましょか」
「…はい」
その手を取ろうとすれば、いらないとばかりに首を振られ、志摩は手を下げた。
物音一つしない廊下を二人、無言で歩く。
重たい沈黙だ。
普段ならば緊張などという言葉からは程遠い志摩だったが、今日ばかりはへらへらと笑ってはいられない。
さて、この国にとって彼の存在は吉となるのか凶となるのか。

「奥村雪男をお連れしました」

「通れ」

厚みのある扉が二人掛かりで開かれる。
更に続く長い廊下を抜け、先ほどよりは小さいがやはり重厚な扉の前に辿り着けば、今度は声を掛ける間もなく扉が開かれた。久方振りに正面から入った謁見の間は、まるで新年行事かと思うほどの人で埋め尽くされている。
ずらりと左右に並ぶ重鎮たち。他国からの使者。
じろじろと遠慮のない視線が二人、いや、彼―――雪男に注がれる。
志摩は注目を浴びているのは自分ではないというのに、先ほどの沈黙など比ではない重圧を感じた。
…薄く彼を包むヴェールはその重圧を少しは和らげているだろうか。
そう思い、ちら、と隣を見れば彼の指先が微かに震えていた。
立ち止まってしまった彼を促すために先ほどは拒まれた手をそっと取る。びくりと肩が揺れたが、今度は特に拒絶されはしなかった。ここでそんな無駄な遣り取りをする気がないというだけかもしれなかったが、きゅ、と力の込められた掌が緊張を物語っていた。
無理もない。
敵地にたった一人、彼は居るのだから。
彼は北の小国の王子だった。
その存在すらもほんの十数年前まで知られなかったほどの山奥に在り、外部から遮断されたその国には名前すらもない。
それもそのはず。周囲がその国の存在を知らなかったように、その国の民も山を降りた先に他の国があるのだと知らなかったため、自国と他国の区別をするための名など持たなかったのだ。
今は『かの国』と呼ばれる小国を、志摩の母国であるこの国―――京の国が制圧したのはたった四日前のこと。
外界の脅威を知らなかった国に軍などあるわけもなく、戦うこともなくただ制圧されたかの国の第二王子は、一人の従者も携えることも許されずに今日、同盟―――とは名ばかりの服従だ―――への調印を済ませた書面を携えこの国へやってきた。長期滞在の上友好のために京の国を学んでもらいたい、という申し出に従いここへきた彼は人質同然で。
軍備もない、資源もない国を、なぜ突然侵略したのかなど志摩は知らない。
ただ、かの国については、その存在こそ明らかになったのは最近であるが、言い伝えでは山奥のその国についての伝承が各地に残っていた。
これまではただの御伽噺だと思われていたが、実際に見つかった国と伝承の一致に、実しやかに囁かれる噂があったことは知っている。
その国の民は人ならざる者なのだという。
民はみな不思議な力を持ち、特に王は万物を従わせる青い炎を操るという。
これまでかの国が見つからなかったのも、その力に守られていたからではないかと。
ならばこんなに簡単に戦に負けたりなどしなかったろうに、とどこからどう見ても人間にしか見えない彼を見遣る。
ついに京の国座主の前へ牽きたてられた彼の、今はヴェールに隠されて見えないはずの瞳が揺れたような気がした。息を飲む音は間近に居る志摩にしか聞こえていないだろう。
震えを断ち切るように爪先にひとつ力を込めた彼は、数段高い上座を前に流れるようなしなやかな造作で頭を垂れた。
「…面を」
促されて志摩がそっとヴェールを上げれば、その瞳は揺れてはいなかった。
彼の視線は志摩を通り越し、真っ直ぐに座主を映している。
「長旅ご苦労だった」
「いえ。まずはこの度のご厚情への御礼を申し上げます」
「おん」
「民を一人として殺めることなく戦を収めて下さいましたこと、心より感謝いたします」
顔を見せる意味で座主を一瞥した後、再度深く頭を下げた雪男は下を向いたまま告げる。
一つ頷いた志摩の主であるこの国の若き座主―――勝呂竜士は一月前に座主として即位したばかりであった。
病に臥せって長い父から座主の証である伽樓羅を継承した彼は十五にして堂々たるものではあるが、なにぶんまだ経験が浅い。
これまでもものぐさな父に代わり国政に関与してきた竜士だが、実際の舵取りとなれば話はまた別だ。
…即位後すぐの彼のこの決断は一体どう転ぶのか。
「ここに恭順の意を」
「これより京の国とかの国は同盟を結ぶ。立会人のもと、調印を」
無事に事が進められていくのを横目に、志摩はぼんやりと考える。
まだ若い座主の後見である志摩家や宝生家にも有無を言わせぬ強引さで推し進められた戦は、確かに始めから勝利は決まっていたけれど。長く侵略などせずただ自衛と自国を豊かにすることに徹してきた京の国が、座主が代替わりした途端に国土を広げにかかったことは列席者にはどう映っているのか。
ほんの一月前まで同じ学び屋で勉学に励んでいた幼馴染が、なんとなく遠くに行ってしまったような気がした。
…それでも、俺は坊に従うまでや。
それは志摩家に生まれた自分の変えられない宿命だ。
けれど志摩には雪男の唇の端がほんの少し震えているのを見逃すことが出来なかった。





(↓以下設定という名の妄想)

【奥村燐】
かの国の第一王子にして、十五歳の成人の儀をもって即位した現在の王。
争いの無い国に生まれたにも関わらず血の気が多く、一部から阻害されている。
十三歳から中立国家正十字の学園都市で帝王学を学び始めるも馴染めず、雪男の卒業と同時に帰国。
勝呂とは友人。

【奥村雪男】
かの国の第二王子。王位継承権一位。
穏和な性格から兄ではなく弟に王位をとの声もあったが、神官としての道を選ぶ。
幼いながらに他国からの圧力に危機を感じ、七歳から独学で勉強を開始。
国と兄を守るためにと、十歳で正十字への入学資格を得て十四歳で全学科終了。
史上最年少の十三歳で医工騎士の資格を取得。
現在は京の国に同盟の人質として滞在。

【藤本獅郎】
代々王家に遣える神官の家系。
双子の母である前女王が出産で死亡した(父親は不明)ため、その後から燐と雪男の後見人を務める。
女王の死後に他国との交流を持つことになった国を守るために翻弄していたが、一ヶ月前に謎の病死を遂げる。
実質の国政・外交を行っていたのは彼であったため、彼の死後に他国からの圧力が強まる。

【勝呂竜士】
京の国の若き座主。
十三歳から正十字で学んでいたが、父の病の悪化で志半ばで帰国し即位。
燐とは友人。雪男とは面識がある程度。

【志摩廉造】
京の国の軍である明陀衆の一派、志摩家の五男。
年齢が近いことから勝呂の学友として幼いころから行動を共にする。
地位は高くないが、気心が知れているためと勝呂の近くで任務にあたることが多い。
勝呂と同じく十三歳から正十字に入っていたものの燐とは面識がある程度、雪男と面識はない。
勝呂から雪男の世話(監視)を任せられる。

【志摩柔造】
志摩家次男。
正十字では特殊学科で雪男と同じ授業を受けていた。

【志摩金造】
志摩家四男。
正十字では一時雪男と同じ学級だった。

【三輪子猫丸】
京の国の意見役である三輪家の若き当主。

【正十字】
中立国家。学園都市を中心とする学術国家。
様々な国の王族・貴族の子女を抱えるため、セキュリティ面より学園は全寮制。
通常学園へは十三~十八歳まで通う。特殊学科は+二年の二十歳まで。

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秘書ときどき旅人
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PH・青祓・幽白・炎ミラ・その他ジャンルいろいろ。
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