「だぶんそれは最上の愛」のレイムさん視点です。
また縛ってますので畳んでます。
今体調絶不調のため暗いのがすらすら書けた。というわけで暗いです。
でも二人は二人で居れば幸せなんだと思う。(真顔)
『たぶんそれは幸福な愛』
ザク、ザクリと切り難いハサミで布を切る。
元はザークシーズのシャツであったそれは今は見る影もなく、シーツの上でとぐろを巻いていた。
引き出しにあったハサミは紙用でなかなか布を切り割けない。数本を切り出したところで、こんな数では足りないと思うが我慢出来ずにある分で彼の腕を縛る。
白く、いつも以上に血の気のない指先が動いて、窮屈を訴えた。
どうかしている。そう思っても、縛るのを止められない。
心配なら縛ればいいと言ったのは彼だった。
ただ寒さに服を着ようとしたのだろう、起き上がる彼の手を咄嗟に掴んだ。ベッドの下に落ちたシャツに伸びていた掴まれていない腕を戻し、ぱちぱちと瞬いてどうしました?と目線で訴えた彼。
自分でも何をそんなに焦っているのかと思っても、掴んだ手を離せず、ばつが悪く視線を泳がせた私に何を思ったか、子供に言い聞かせるような声音で大丈夫だと告げられた。
どこにも行かないと、逃げはしないと差し出された腕の誘惑に、黒い塊が喉元まで込み上げた。
いいのかと最後の理性でもって訊ねるも、私がそんなことをするとは思っていないのだろう、無邪気にもどうぞと纏めて晒された動脈に、ついに塞き止めていたものが溢れ出た。
それからはもう微塵の躊躇もなかった。
痛いという訴えすら、私を止めることは出来ない。
ちらと見た彼の瞳は揺れていた。闇にも鮮明に浮かび上がる赤は、今はゆらいで焔のようだ。
その瞳が映す感情に、けれど罪悪感の一つも感じない。
今はもう既に手首から肘まで肌が見えているところなんかないのに、まだまだ足りなくて指を縛った。
白い指が白い布で覆われていく。爪の先まで見えなくなってもまだ足りない。
「…レイムさん」
指先を縛り終えてもなお布を求めてベッドの上を彷徨う手に、堪りかねたように声が掛けられる。
「これ以上、どこを縛るって言うんですカ」
ほら、と掲げられた腕は余すところなく布で覆われていた。
もうどこにも隙間なんてなかった。
でもまだ足りない。まだ全然足りないのに。
私はまた一本布を手にする。
ひゅ、とザークシーズの喉が鳴った。制止の声の届かない私にまるで絶望したような瞳が痛ましい。
「どれだけ縛っても足りない。不安なんだ、お前が居なくなりそうで」
だからと言って、物理的に縛ったところで何の意味もないと分かっているのに。
出した声は自分でも情けないと思うほど擦れていた。
「…こんなことしなくても私は逃げませんよ」
「…………」
労わるような声音に手にしていた布を落とし、両手でザークシーズの頬を包んでそっと顔を寄せる。
繰り返される触れるだけのキスを抵抗もせず受けるザークシーズが、口付けしやすいように僅かに顔を傾けた。
こんなことをした後でも彼が私を拒むことはなく、従順に受け入れられる口付けは確かに私のどこかを宥めていく。
視界の端で揺れる白に覆われた腕。確かに縛ってしまいたいと思った腕だったが、どれだけ縛ったところで全然足りないとわかったから、だからもういいと思った。
ハサミを手繰り寄せ、ザク、ザクリ、重たい音を響かせて、彼を縛っていた布を切っていく。
はらはらとベッドに落ちていく残骸が山を作り隠れていた肌色が顕になると、彼は自由になった腕を首に回してきた。
まるでつい先ほどまでの狂気は存在しなかったかのようないつもの恋人の仕草で添えられた腕にびくりと固まる。
目蓋を開けて見た至近距離の顔は、透明な表情でこちらを見つめていた。
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