長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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志摩雪+奥村兄弟。
雪ちゃんの嫁入り修行その1、です。(続きます…) 春までは、まだ。 「…兄さん、塩一つまみって一体何gなの?」 「親指と人差し指と中指で軽くつまんだくらいだ」 「それって人によって量が変わるじゃないか」 「いんだよ、それが家庭の味ってやつなんだよ」 「でも…」 キッチンで問答してどれくらい経っただろうか。 炊飯器任せの米はもうあと数分で炊けるというのに、玉子焼き一つ出来上がっていない現状に燐は頭を抱えたくなった。 高校卒業を機に、京都の医大へ進学することとなった雪男に、 「お前、一人暮らしなんてしたら絶対飢えて死ぬぞ」 話があると呼び出した寮の厨房で、真剣な顔で詰め寄った。 そう。 成績優秀スポーツ万能、おまけに最年少で祓魔師になった天才も、こと家事となるとてんで使い物にならなかった。 「いいよ。外食か、コンビニとかスーパーで何か買…」 「そんな無駄遣い兄ちゃんが許さん!」 「兄さんだって知っているだろ? 僕に料理のセンスがないの」 「うっ」 目玉焼きすらどうしたらここまでと思う程殻が入っていたり、ある日キッチンに梅干の匂いが充満していると思ったら『テレビで煮物に梅干を入れるとジャガイモが煮崩れないって言っていたんだ。だからカレーのジャガイモも煮崩れないと思って』とカレーなのに梅干の匂いしかしない物体が出来上がっていたり(しかも、そのカレーには梅干が溶け込んでいた上に種がごろごろと入っていた)、味噌汁が変な味だったので聞いてみれば出汁と胡椒を間違えたのだと言う始末(あれは最悪の味だった)。 そんなこんなで雪男はこの三年、家事全般一切の上達を見せることがなかったのだ。 上達しなかったのは、恐ろしい料理の数々に恐怖した燐が雪男に厨房を渡さなかったためというのも原因のうちなのだが、それは置いておく。 「外食ばっかじゃ偏るだろ! せめて味噌汁と、そうだなあとは卵料理くらいは作れるようになれ!」 何だかんだで、経済面よりは雪男の健康を気にしているのだと暗に訴える燐に、ほだされた雪男が厨房に立つこと既に一時間。 なかなか上手に卵をボールに割りいれることができず、ぐしゃりとありえない音を立てて卵が割れらるその横で、燐が器用に菜箸で殻を取り除いていった。 上手く割れるまで特訓! と続けた卵割りがようやくそれなりにできた時には10個入りの卵は既に3パック目に突入していて、この大量の卵はプリンと茶碗蒸しにしようと燐が思ったところで、すっかり存在を忘れていた人物が声を上げた。 「なー、そんな無理せんと、飯ならウチ来ればええやん」 へらり、とダイニングから声を掛けてきたのは志摩廉造。 この男は最近この寮に入り浸っていて、さらにはあろう事か。 燐のたった一人の可愛い可愛い弟の恋人、らしい。 一体全体この頭どころか頭の中までピンクな男のどこが良いと言うのか。 いや確かに友達としては志摩はいい奴だ。けど、雪男は学校で女子にモッテモテで、何もこんなのを恋人に選ぶ必要なんてないんだ。 雪男の口から志摩と付き合っているのだと聞いた時には、なんの冗談かと、今日はエイプリールフールじゃねぇけど、というのが精一杯で。あ、だめだ。マジ?と聞いて、うん、マジ、と返された返答に覚えた殺意が蘇ってきた。 「なんなら一緒に住まへん?」 「ぜっったいに許さん!」 ガルルルルと喉を鳴らせば、おーこわ、と言いながらも志摩がにやにやとエプロン姿の雪男を見る。 「これは二人の問題やし。お義兄さんの出る幕やあらへんよなー」 「お、お義%&#☆! お、お前に兄よばわりされる覚えはないわ!」 「そろそろ弟離れせんと、来春には雪ちゃんは俺と京都行くんやからv」 「別にお前んとこ行くわけじゃないだろ! たまたま! 雪男の行きたい大学が京都だっただけ! だ!」 「なんや認めたくないんはわかるけどな、雪は、俺と、離れたないからこっちの大学受けてくれてん。なーv」 「何が『なーv』だ自信過剰もだいがいにしろ!」 「やってほんまのことやし」 「なんだとっ」 ピピピピッ いつまでも続く問答を遮るように、ご飯の炊けた音がした。 「二人とも、夕食の間は静かにね」 「…一時休戦だな」 「そやな」 未だしこりの残ったような言い合いをする二人に対して、何が楽しいのかくすくすと笑うばかりの雪男が三人分の食器を用意していた。 その笑顔は、高校に入ったころの冷めたものでなく柔らかな日差しのようだった。 ある時期から雪男の笑顔が増えたのは本当で、でも雪男が肩に力を入れて生きていたのは悪魔である燐を心配してのことで、その力が抜けたのは燐が祓魔師として居場所を得たことで安定したのだと思っていたけれど。 …なんか。志摩と居る時の雪男、楽しそうだ。 だから本当は。とてもとても癪ではあるが、雪男の相手は志摩でもいいかとも燐は思っている。 だけど、自分たちはたった二人きりの兄弟で。ほんの少し前まで世界にはお互いしか存在していなかった。 中学の頃はジジイも修道院のみんなも居たし、ここ(正十字学園)にきて友達だって出来たけど、でも俺たちはたった二人の肉親で、その意味合いは全然違う。 だから、あと少し。 せめて雪男の旅立つ春までは、独占させてくれたっていいじゃないか。 なんて、子供みたいで正面切っては言えないけれど。 ぼんやり考えていると、卓上には炊きたてご飯と味噌汁、燐が作り置いていた魚の煮付けとほうれん草のお浸し、そして雪男の作った卵の成れの果てが並べられていく。 「わぁい、せんせの手作り♪」 「僕が作ったのは玉子焼きだけだけどね」 「…これのどこが玉子焼きだよ」 目の前に出されたのはどう見ても玉子焼きというよりはスクランブルエッグで。 せめて、春までには。 餞別代りに、ほんと玉子焼きくらいは覚えさせなきゃなぁと考える燐だった。 春までは、まだ…―――。 (蛇足) 「おえ、なんですのんこれ」 「…雪男、これ、何入れた…」 「えっと、お塩を入れすぎちゃって、何かの本で『味が濃すぎた時はお酢を入れるといい』って書いてあったからお酢を入れてみました」 「それは煮物の時! しかも入れすぎだ!」 「せんせぇえ」 雪男のご飯は結局、鍵を使って毎日燐が運びましたとさ♪ PR |
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プロフィール
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kao
性別:
非公開
職業:
秘書ときどき旅人
自己紹介:
PH・青祓・幽白・炎ミラ・その他ジャンルいろいろ。
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