突如レイブレ←ギルの神様が降りてきた。
お題のタイトルより解るように、ギルが報われません。あしからず。
このお題はレイブレ←ギルで埋め尽くしたいと思っています。
いつも通り見切り発車ですけどー
『私の知らない彼と彼』
(終わらされた恋五題 リライト様)
あれはいつだったか。
ソファーに横たわっていた彼に、眠っているのだと思って伸ばした手を弾かれたのは。
他人の居るところでなんか眠れませんヨ、とそう言って気だるげに起こされた上体の、スカーフが外されていたために覗いていた日に焼けていない白い喉元と、いつも血の気のない顔色とが相違なかったことを、今でもはっきり覚えている。
*****
神出鬼没の彼をこちらから見つけるには、パンドラ内であればレイムのところに行くのが一番確率が高い。
かといってその確率もせいぜいが三割なのだが、自室に居ないとなるとそこしか思い浮かばないのだから仕方がない。
彼が友人だと豪語する相手は、当の人物には似合わない品行方正な人当たりの良い好青年で、例えそこに彼が居なくても気まずい思いをすることはない。
そして大抵が、彼の所在が明らかにならないまでも、既にパンドラを出たか、まだ内部に居るかくらいは明らかになるのだ。
探し人は棚やテーブルを出入口のように使うので、守衛の情報もあてにはならないから貴重な情報だ。
彼が寄越してきた依頼の報告の事も多いのに、毎度かかる捜索の手間は何とかならないものか。
人に面倒を押し付けて何をしているのか、本人がおとなしく報告を待っていることはない。
いつもはぐらかされてばかりだが、今日こそは文句の一つでも言ってやろう。
そんなことを思いながら慣れた廊下を歩けば、目的の部屋には珍しく離席を告げる札。
庶務担当に確認した時には、レイムは部屋に居ると言っていたのだが。
報告にでも出ているのであれば待つかと、ノックもせずに、目的の、レイムの部屋の扉を開ける。
「どなたですか?」
ガシャリとドアノブを回せば、不在と思われた部屋からは主の声。
なんだ居たのかと、しかし執務机には居なかった人物を目線で探して唖然とした。
そこには、部屋主だけでなく探していた人物…ブレイクも、やはり居て。
ソファーに並んで腰掛けている二人。
眠って、いる?
ただ座っているだけなら驚きはしなかった。
だがそこに在ったのは。
書類を読むレイムの肩に預けられた白い頭。
指先までだらりと力の抜けた身体。
知り合って10年近くして、初めて、見る。
驚き、目を離せずに居ると、閉じていた瞳がぼんやりと開かれた。
向けられた視線になぜか緊張が走る。
いつもより潤んだ赤は、しかしチラと視線を向けてきただけでまた閉じられた。
なんだ君か、とでも言わんばかりの態。
身を起こすこともなく。視線以外は一切動かす事はなく。
その無防備な姿に、ここに来るまでに彼に感じていた苛立ちは飛散する。
ただ、
いつものおどけた態度や表情ではない彼が。
伏せられた長い睫毛が。
白く細い頬が。
あまりに儚げで、
綺麗だ、と思った。
さらり、レイムが銀糸を撫でた。
その動きにより流れ落ちた長い前髪が、ブレイクの一つだけ覗いていた瞳を隠してしまう。
もぞりとレイムの肩に擦り寄るようにブレイクが頭の位置を直せば、その表情はもう伺えない。
それを残念に思っていると、レイムがブレイクの肩から落ちかけていたジャケットを持ち上げて掛け直した。
口元すらも布に阻まれ、完全にこちらからは見えなくなった彼の顔。
未練がましく銀色の頭を見つめれば、穏やかな声が掛けられる。
「ギルバート様、何かご用でしょうか?」
言葉をみつけられず小さく一つ頷けば、苦く笑ったレイムが、申し訳ありませんがこのままでも?と問い掛けてきた。
ああ、と短く答えながら、自分は一体何をしに来たのだったかと頭を転らせるが、まるで思考が働かない。
「いや、でも。起きないか?」
やっとのことで口から出たのは単純な疑問で。
「この状態なら起きませんよ」
「そう、か」
当然のように返された答えが何を意味しているのか。胸にわだかまる靄を振り払おうとするも、穏やかな声が追い討ちをかける。
「誰かが横に居ないと眠れないなんて、子供のようですよね」
さらり。
また髪を撫ぜる手が、手袋をしていないことに気付いた。
そのまま下に降りた手が、上着の影で、直に彼の頬に触れる。
それでも起きないブレイクに、そして寄り添うレイムに感じたのは。
…っ、どうして、こんな、
結局、用件は言い出せず、大したことではないからと残し、逃げるように部屋を出た。
無意識に歩調はだんだんと早くなり、気付けば駆け込むように入った自室。
扉を背にずるりと座り込む。
知りたくなかった。
知らなければよかった。
誰かが居ると眠れないと言っていた彼が。
’誰か’が居ないと眠れないなんて---。
ギルブレは報われなさがすきです。
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