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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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なんとか仕上げた今更雪男誕生日祝い!
雪男が幸せならそれでいい!
雪ちゃんの幸せを追求した結果です。
高校二年の冬設定、原作主軸ではありますが色々捏造してますw
無駄に長いのでグダグダ注意。
メフィ雪な蛇足があったのですが、年末の忙しさにタイムアウト。




一人で入るには大きすぎる旧男子寮の湯船に浸かりようやく、雪男はほっと溜め息を吐いた。
じんわりと染み入る暖かさに、緊張していた心と身体が解されていく。埃っぽかった髪を洗いさっぱりとすれば、ここ数日定着していた眉間の皺は綻んだ。
本当はもう少しゆっくりと風呂に浸かっていたい気持ちもあるが、数日ぶりに「今日は帰れるよ」とメールをしたら一緒に夕飯を食べようと遅くまで自分を待っていてくれたらしい燐の空腹がそろそろ限界に達するだろう。
学園も塾も冬休みに入ったのを良いことに、強制的に入れられた長めの任務をこなして帰ってきてみれば既に年末で。
生まれて初めてクリスマスも誕生日も共に過ごすことの出来なかった双子の兄は、先ほどちらと見た限りでもすごい量のごちそうをテーブルに並べていた。
帰宅連絡を受けて急いで今日作ったのだという燐の手作りケーキの上にはサンタクロースの飾りが乗っていて、間違いを正された後であっても相変わらず自分たちの誕生日ケーキはこれなのだなと笑みが漏れた。
同時に自分の作った料理を前に唾を飲んでいた燐を思い出し、なるべく待たせないようにと急いで風呂から上がる。
脱衣所でタオルで髪を乾かしていると、視界の端に入った携帯がちかちかとライトを点滅させてメールの到着を知らせていた。
ピ、とメールマークを押せば、それは予想の人物からで。 


20××/12/30 20:58
From 志摩くん
Sub  Re2:今日の夜会えへ
    ん?
――――――――――――
やった!
ほな23:49いつものとこで
待っとる。
ここんとこ急に寒なったし
あったかくして来てな。

   -----END-----


燐に連絡をした時に、志摩にも仕事が一段落したことを報告していた。
待っていたかのように直後に今晩会えないかとの打診メールが来た時には、返信の速さよりも帰省せずにまだ学園に残っていたのかと驚いた。
冬休みの間、大晦日から三が日までだけは正十字学園は完全閉鎖される。
教員や寮の食堂、待機所などで働く面々にも当然ながら休みはあり、お盆休みはずらして取ればいいが年末ばかりはそうはいかないためだ。
当然一般寮が閉鎖されるとなるとそこで生活している祓魔師候補生たちも居るところが無くなるわけで、そんな理由から祓魔塾生にも年末だけは短いながらも休みがある。
そうは言っても悪魔に年末年始があるはずもなく、すでに祓魔師である雪男には冬休みなどまったく関係はないのだが。
それでも学園に入るまでは自分にも冬休みというものがあった。
それはまだ義務教育を終えていない雪男への配慮もあったのだろう。
だが、それ以上に。
燐が悪魔に覚醒する以前と今では実は祓魔師の稼働率は大幅に異なる。明らかに活性化した異形のものたちに祓魔師は万年人手不足だ。
さらには昨年の不浄王の一件もあり京都支部がばたついているため、日本支部の面々はまだまだ通常運営とは言い難い。
今年の夏に上二級に昇進したばかりの雪男へも、通常は熟年祓魔師が任される現場責任を問われる任務が割り振られるほどだ。
学生という立場上普段は割り振られない長期任務の上、慣れない現場責任者と実務をこなして疲れた身体は重たく、休息を求めて珍しく眠気を訴えている。
それでも、いや疲れているからこそ志摩に会いたいと思った。これから夕飯だから少し遅くなってもいいのなら、と返したメールへ返された逢瀬の約束に、伝えたいことは沢山あったがとりあえずは「了解。」と簡素な返事を送った。
送信完了の画面を認めて携帯をポケットに仕舞い、兄弟二人だけで生活するには無駄に広い寮の廊下を足早に歩き出した。
食堂へと向かう廊下には暖房器具などはなく、冬の夜の寒さは風呂で温まったはずの身体を容赦なく冷やしていく。
仕事中は寒さなど気にしている余裕はなかったが、自分が不在にしていたほんの十日で一気に冬は本番になっていたようだ。
夜はちゃんと暖かくして外に出なければと考え、雪男は一つ身震いをして食堂の扉を開けた。
「お待たせ、兄さ…」


パンッパパパンッ


「メリークリスマス! 誕生日おめでとう!」


わっと大量のテープと紙ふぶきが雪男の頭に降り注いだ。
ぱちぱちりと瞬きをして見れば、燐の手には複数のクラッカーが握られている。
「へっへー、驚いただろー」
「…うん、びっくりした」
得意げに胸を張る兄に素直に返せば、大成功だな!と満足そうな笑みでクロと顔を見合わせていた。
にゃあ、と雪男にはただの猫の鳴き声にしか聞こえないクロの声と会話をしながらも座るように促す燐について椅子に腰掛けると、入るまで気付かなかったが部屋は色とりどりの紙飾りで装飾されていた。
これどうしたのと聞けば、今年も塾のメンバーでクリスマスパーティをしたのだという。
クラッカーもその残りでさ。いや残りっつーか、お前もちゃんと面子に入ってたのに帰ってこないから。
会えなかった日々を埋めるように止め処なく喋る燐。
ちょうどいいから飾りはお前の誕生祝いにそのまま残しておいた、と言う燐は、こんなにぎやかな部屋でこの数日をどんな思いで過ごしたのだろう。
それでもクリスマスは一人で過ごさせることがなかったようで、雪男は心の中で、寂しがりやの燐を支えてくれる友人たちに感謝した。
紆余曲折あって和解した塾生たちは、今では燐の―――いや、自分たち二人の、良き理解者だ。
自分たちを魔神の落胤と知ってなお、共に笑い、泣き、戦う大切な仲間だ。
そう、塾生たちが受け入れたのは燐だけではない。
燐さえ受け入れられればそれでいいのだと、その輪を遠巻きに見ていた雪男すらもいつの間にか彼らは受け入れていた。
去年みんなで全員の誕生日パーティーを、と宴を開催したときには、兄はまだしも自分はあの輪には入れないと思っていた。
事実、燐としえみ以外の塾生は、自分を教師として少し遠巻きに見ていた。
そして雪男もそれでいいと思っていた。
自分には兄を守るという誓いのためにやらなければならない事が山とあり、普通の学生生活を送っている余裕などない。どちらかといえば人付き合いは苦手な部類だ。不自然でない程度の距離を保ち、不都合のない関係が築ければそれでいい。
なのに……。
きっかけは志摩だった。

せんせのことは誰が守りますのん。

授業でわからないところがあったと引き止められ、二人きり残った祓魔塾の教室で。どんな会話の流れだったかもよく覚えていないのに、泣きそうな声で紡がれた台詞は今でも鮮明に耳に残っている。
神父さんとともに戦うのだと決めたあの日から立ち止まる暇などなく。
大切なもの(兄)を守ると誓ったあの日から、守られるなどということは考えたこともなかった。守って欲しいと思ったこともなかった。
これでももう中一級の祓魔師ですから、自分のことは自分で守れます。そう返せば、そうやなくて、と益々歪んでいった彼の顔。
どうして誰も受け入れようとしないのだと下唇を噛んだ彼が、掌に触れてきて。
そんなんやったらいつか潰れてまうよ、と言う彼の方が潰れてしまいそうで。
一人で生きようとしないで欲しいと、ただそばに居させて欲しいと手を取る志摩を、思わず受け入れてしまっていた。
そうして一人懐に入れてしまえば、それを察知した塾生たちは複雑な雪男の思いなどどこ吹く風とばかりに、あっという間に壁を破って入ってきた。
壁を作っていたのは彼らではなくて自分であったのだ。
大人の中で育ってきた雪男は彼らに戸惑うことも多かったが、全員が決して雪男の手を離そうとはしなかった。
ふと、壁に飾られた飾りの中に自分に似たマスコットを見つけて笑みが零れる。
外見からは想像もつかないが、実は絵やこういった飾りつけの得意な勝呂が用意したのだろう。
よく見れば、壁飾りの中には塾生全員の特徴を上手に掴んだマスコットが認められた。
込み上げる喜びに雪男は、もしかしたら自分は燐以上に彼らに救われているのかもしれないなと思った。








*****








久しぶりに兄弟水入らずで遅い夕飯を食べて、離れていた間の話を聞いて。
いつもよりも少しだけ夜更かしをした燐は今はぐっすりと眠っている。
眠りを妨げないようにと極力照明を落とした部屋で、自分も寝入ってしまわないようにと雪男は温くなったコーヒーを一気に胃に流し込んだ。
約束まではまだ時間がある。
本当は明日でもいいのだが出来ることはしてしまおうと不在中のメールチェックをすれば、任務の邪魔をしないようにとの配慮だろう、パソコンのアドレスに塾生たちからの誕生祝いのメールを見つけて雪男の顔は綻んだ。
「プレゼントは新学期に渡します。楽しみにしていてね」としえみの一言で締めくくられたメールには、ここで行われたクリスマスパーティの写真が貼付されていた。
サンタの帽子を被ってブイサインをする志摩の前に、ちょこんと置かれた食堂にあった自分のマスコットが目に入って、噴出しそうになる。
その画面をなぞり、雪男は待ち合わせまでのあと数十分をもどかしく感じた。
待ち合わせは23:49。
なんとも中途半端な時間だが、志摩が指定してきたのだから何か理由があるのだろう。
一緒に祝おうと約束した自分の誕生日は過ぎてしまったけれど、きっと志摩のことだ、何かしら雪男を驚かそうとしてくれているに違いないと、指定時刻に合わせて行く算段をつける。
付き合って二度目の雪男の誕生日。
…去年は誕生日を申告しなかったため何をしたわけでもなく、過ぎた後に志摩にさんざん嘆かれたのだが。
「なんで言わんの!」
「…聞かれなかったので」
自分の誕生日は冬休み真っ最中で、だから今まで友達に祝ってもらったこともない。そもそも自分にそんなに仲の良い友達など居た例がなく、身内以外の誰かに誕生日を祝ってもらうことも祝うことも頭になかったのだ。
だから自分の誕生日を誰かに言うことも、誰かに誕生日を聞くこともなかった。
そう告げれば、難しい顔をした志摩はしばし考え込んだ後に、そんならまあええか、といつもの笑顔を浮かべた。
「誕生日はまた来年祝えばええしな」
ちなみに俺は7月4日や。祝ってな?そんで、せんせの誕生日は俺と過ごして?
そう言った彼は難しい顔から一転、にこにこと溢れんばかりの笑みを浮かべていた。
「よお考えたら、せんせの初めて、ぎょうさん貰えるてことやもんな」
「?」
その時はなんだかわからなかったが、一年と少し志摩と付き合ってきて、確かにたくさんの初めてを経験したことを思い出す。
寒い冬の日の夜、初めて手を繋いで歩いた。
親愛ではない初めての恋人のキスは夕方の教室で。
初めて恋人の誕生日を祝って、今年の夏は雪男の昇任のお祝いにと日帰りだけれども初めて二人で旅行をした。
今年の雪男の誕生日もその初めての一つになるはずだったのだけれど。
辞令が出た段階で、数日では帰れない任務の内容にすぐさま約束を守れない侘びを志摩に入れた。
当日は無理でも帰ったら絶対お祝いさせてな、と見送られて、既に十日。
気にせんでええよ、と言うわりに、なんでこの時期にそない任務入れはるん理事長!と地団駄を踏む勢いの志摩に笑みを漏らせば、あ、ようやく笑ろたと体温の高い手で撫でられた頬。
温もりを求めて自分で触れた頬は夜の寒さに冷えてしまっていて、ああ早く会いたいなと思った。
待ち合わせまではあと5分。
立ち上がった雪男は、ちらと窓の外を見た。
「いつもの待ち合わせ場所」は、旧男子寮の玄関を出てすぐの木の下。
二人の間柄は周囲には秘密であったので、夜にこっそり落ち合う時にはひと気のない旧男子寮前が定番となっていた。
寮の前の道には常葉樹の並木が続いていて、上(燐と雪男の部屋)からはその場所が見えないのも理由の一つだ。
だから窓からは志摩の姿を見つけることは出来なかったが、葉の隙間からきらりと見えた光が到着を告げた。街燈もほとんどないこの寮の付近では、携帯の液晶ライトすらも明るく見えるのだ。
雪男は身支度を整えて、静かにゆっくりと階段を降りる。
そおっと、鍵の掛かっていない正面扉から出れば、ぐるぐると大袈裟に巻かれたマフラーから鼻先を出して志摩がへにゃと笑った。
「志摩くん、お待たせ」
「時間ぴったりや」
久しぶりと笑う彼を見て、改めて、帰ってきたのだと雪男はほっとした。
けれど。
会いたかった。会えて嬉しい。会いに来てくれてありがとう。
伝えたいことはたくさんあったはずなのに、どれもこれもが雪男の中で蟠る。
上手く言葉を選べずに居れば、ポケットに入っていたためだろう、温かい手が雪男の指を掴む。そのまま手を引かれて、志摩のコートのポケットに誘導される。見えない場所でぎゅ、と握られた掌に、頬に血が上るのが解った。
「し、志摩くん、」
「ほな、行こか」
手を取られ、歩き出す志摩に引かれる形で目的地もわからずに雪男も歩き出した。
他に生徒も残っていないのだろう、通り過ぎる一般寮は完全に明かりを落としていて、いつもよりも全体的に景色が薄暗く感じられる。
暗がりにも迷いのない足取りの志摩は、なぜかいつも溢れんばかりに言う軽口を口にしなかった。
どこかいつもと違う雰囲気を感じて、ふっと少しだけ先を歩く彼を伺うと、思いの他真剣な眼差しで前を見ている。
「…志摩くん」
「ん?」
呼びかければどことなく緊張を孕んだ笑みが向けられて、なんでもない、と雪男は言葉を切った。
そうか、とそれだけ返した志摩は、無言のまま歩くペースを上げる。
普段ならありえない静寂に、雪男は困惑した。
この不自然な沈黙は自分のせいなのではないか、と。
二人の付き合いはもう一年を越える。
……一年も、経ったのに。
自分は不器用なままで。
こうして連れ出してくれるのはいつも彼だ、と雪男は落ち込んだ。
いつだって楽しいことを教えてくれるのは志摩で、そんな志摩に果たして自分は何か返せているのだろうか。
思い返せばこの一年、そんなに多くの思い出を作れたわけではなかった。
約束が果たされなかったのは今回だけではなく、その度に、約束は中止やなくて延期やから、と言う彼に甘えて過ごして。
いつも彼は笑っていたから、それでいいなんて思っていたけれど。…本当のところはわからない。
冬の冷たい空気が身体だけでなく心まで冷やしていくように思えて、雪男は不安に繋いだ手に力を込める。
驚いたように振り返った志摩が大きく瞬いて、次いでぎゅうと握り返された掌に、ああまだ大丈夫だと思った。
夜の空気は冷たく肺を満たすのに、志摩に握られた指先からじわりと何かが這い上がった。 


まるで山のように聳え立つ正十字学園の中腹あたりに到着して、突然、志摩が歩みを止めた。
「せんせ、見て」
少し高台から見下ろした景色には、誰も居ないのにライトアップされたメッフィーランド。
そこ、観覧車。と指差された先の観覧車の中央にあるデジタル時計は23:59を表示していた。
派手好きのメフィストの好みか時期によってライトの変わる観覧車は、今はぴか、ぴか、と時計の針のように1秒ごとに軸にライトが燈っていく。
「ほら、5、4、」
言われて自分の腕時計を見れば、時計のようだと思ったライトはまさにその針とリンクしていた。
「3、2、1…」
ああ、日付が変わるのか。


パンッ


「ハッピーニューイヤーイブ! 遅なったけど誕生日おめでとう!」


「…は?」
今日二度目、いや、日付が変わったから正確には二日連続のクラッカーを間近で受け、雪男は目を見開いた。
「いやあ、間におうてよかった。久しぶりのナマのせんせに見とれてもうて、ちょお時間押してたんや」
せっかく時間計算して待ち合わせしたのに、間に合わん思て緊張したわあ。
ふうと一仕事終えたように額を拭う仕草をする志摩を雪男は唖然と見つめる。
「あれ? せんせクラッカーそない驚いた?」
言葉をなくした雪男を、志摩が心配そうに覗き込んできた。
「…いや、さっき兄さんにもやられたし」
「ええ! 俺、奥村くんと同じレベル?!」
しまったそう言えばパーティーの残りのクラッカーを燐が欲しがっていたと悔しがるいつもの志摩に、雪男はじわじわと沸きあがる感情に口元を振るわせた。
黙って歩く姿も。あの緊張感も。全て自分を喜ばせるため。
「ぷっ、あはははは」
「え、なに? 何なん?」 
込み上げる笑いに今度は志摩が言葉を失った。けれど笑い続ける雪男に、なんや楽しそうやからええわと、クラッカーを鳴らすために離れた手をまた握られた。
外気に少し冷えてしまった手を握り返して、雪男は今なら言えると思った。
「ありがとう。会えて嬉しい。会いたかったよ、志摩くん」
「せんせ…」
つい数分前に言い澱んだ言葉がすうと出た。
それでもこれから言うことは流石に面と向かってでは恥ずかしくて、雪男はそっと志摩の肩に頭を伏せた。
腰に回された腕に勇気を得て、雪男は次の言葉を紡ぐ。

「好きです」

滅多に言わない、いや、言うことの出来ない好きを口にすれば、感じたのは恥ずかしさばかりではなくて。
でも自然と緩んだ顔を見られたくはなくて一層強く肩に顔を押し付ける。
素面ではもしかしたら初めてかもしれない雪男からの告白に固まった志摩に、ふふと笑いを零せば、がばりと強く肩を掴まれ覗き込まれた。
真剣な瞳が真正面から雪男を見つめてくる。
「せんせ、キスしたい」
言うが早いか近づいてくる顔に、雪男は慌てた。
「え、ここで?」
こんな風に抱き合っておいて今更だが、ここは外だ。
人気はないとは言え、どこに他人の目があるかわかったものではない。
「うん、いま」
「え、ちょ、」
駄目だと思うのに、引き寄せられて暖かなその感触に、雪男は抵抗が出来なくなった。
熱い舌が歯列を割って入ってくるのを陶然と受け止める。しがみ付く倍の力で抱きしめられて、むしろ応えるように舌を差し出してしまう。
呼吸を奪うキスに、ん、と雪男が鼻から抜ける息を漏らすと、溜め息を吐いた志摩が耳元で囁いた。
「ゆき…」
愛しげに呼ぶ声に胸が詰まった。
「ほんま嬉しい。初めて雪から好きや言うてくれて」
声を吹き込みそのまま耳元に落とされた口付けが、目蓋に、頬に落とされて、また雪男の唇を食んできた。
繰り返される触れるだけのキスがもどかしくて、今度は雪男がぐいと志摩の後ろ髪を掴んで引き寄せると、ぼやけるほど間近に迫った瞳が優しく撓む。
「志摩くん、すき」
「俺も」
直接唇に吹き込んだ言葉へ迷いなく返された返事に、酔ったような幸福感の中で思う。
今はこれが精一杯でぎこちない愛しかただけれど、それでも恋は一人では出来ないから。
ちゃんと見て、目を逸らさないで、二人で超えていければいいと……―――。
 

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