忍者ブログ
長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
[116] [115] [112] [114] [111] [110] [109] [106] [104] [103] [105]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

大学生で同居しているという捏造な志摩雪。
春までは、まだ。」の延長線上。




  コンビニおでん



薄く赤に色づく空を見ながら、家までの道程を一人歩く。
今日はバイトの家庭教師先の子が試験が近いということで、普段は行かない曜日だったが1時間だけの依頼を受けた。
お互いに午後の授業が1コマしかない曜日だからいつもならスーパーで志摩と待ち合わせて買出しする日となっていたため、志摩には連絡を入れておいたものの足は自然と急ぐ。
「…おん。それやったら買い出しはしとくさかい、はよ帰ってきてな」
そう言った志摩の声は、どこか不機嫌で…。
朝は何ともなかった。
だから、これは雪男のせいではないはずだ。
けれど。
帰ってもまだ志摩が不機嫌だった場合は厄介だ。
今の家は、志摩と雪男の二人きりの空間なのだから。
なんだかんだと住み着いてしまった志摩と二人暮らしを始めて既に半年。
元は雪男が一人暮らしするために借りたさほど広くはない部屋での生活も、お互いに寮生活に慣れているから別に何の弊害もない。
借りる当初1Rでいいかと思っていた賃貸だが、「休みには泊まり行くから」という人間が二人も居たため1LDKにして結果正解だった。
学業の傍ら祓魔師をしながらも、バイトにサークルにと学生生活を満喫している志摩とはすれ違いも多いが、概ね良好な共同生活を送っている。

―――もっと。飽きるくらいに傍に居ることになると思っていたんだけどな。

ふと見上げると、先ほどまでまだ明るかった空は、もう薄暗かった。
つい最近までこの時間はまだ明るかったな、と思い季節の移ろいの早さを実感する。
ちらほらと見え始める薄い星の光。
急激に変わっていく空の色。
空の色の移ろいに、あっという間に過ぎ去った正十字学園での3年間を思う。
志摩との付き合いは高1の夏の終わりに始まって、きっと長くは続かないだろうと思った交際は既に3年を超えていた。
『祓魔塾』という特殊な環境下での一過性のものだと思った彼の自分への執着は、高校を卒業した今もまだ継続中だ。
そのことに安堵を覚えると同時に、先のことを思うと少し、ほんの少しだけ不安に駆られる。
あの頃よりもお互いに知らないことが増えた。
正十字学園でもクラスは違ったが、通常の勉強と祓魔塾の両立で志摩もそれなりに忙しく、概ね勝呂や三輪と一緒に居るばかりで級友と過ごすことはあまりないようだった。
けれど今は、違う学校へ通い、違う友達が居る。アルバイト先での人間関係だってあるだろう。
『寮暮らしの高校生活』という閉鎖空間から広い世界へ出て、自分は志摩にとって一体どれだけの魅力を持てているだろうか。
志摩からの告白で始まった関係は、今では雪男の心に深く根付いていて…―――


「雪!」


感慨に耽っていたら、もうアパートは目の前で。
アパートの前の路地で、見慣れた人影が迎えた。
「…志摩くん」
壁に背を預けた志摩が軽く手を上げる。
「時間通りやったな」
「…なんでこんなところに居るの」
もう12月に入り冬本番の夕方はかなり冷える。
「コンビニ帰り。おでんが安売りしてたかさかい、今日は夕飯もうこれにしよ思て」
そういって挙げられた手には、確かに近所のコンビニの袋。
雪の好きな糸こんにゃくもちゃんとあるでー、と渡された袋は、とても冷えていて、雪男は顔を顰めた。
「志摩くん、どれだけここに居たの?」
「…いや、その…」
「コンビニまでは徒歩2分。こんなに冷め切るわけがない」
「…あー、やから…えっと」
「……」
口ごもる志摩に、無言の圧力をかける。
「…1時間。ここに居った」
不承不承、志摩が白状した。
「何でそんな…」
「やって! この曜日は、いつも一緒に買い物するて決めてるやん!」
「それは…急なバイトが入ったと連絡したでしょう」
無断で約束をやぶったわけではない。
黙り込む志摩に、ふと気付いた。
「まさか、とは思うけど志摩くん。昼間連絡したときに、君が機嫌が悪かった理由は、これ?」
う、っと志摩が呻く。
「…そや」
拗ねたような口調。
「一緒に暮らし出して、前より一緒に居れる思たのに。けど、すれ違いも多いやろ。一週間に1回の約束くらい、優先してくれたってええやん!」
それこそ子供のような言い分に、呆れてしまう。
なのに。
手にしたおでんはとても冷たいのに…。
―――暖かい。
込み上げる幸福感。
すれ違う時間に寂しさを感じていたのは、自分だけではなかった。
にやけてしまいそうな口元を隠すため、俯いて手元のおでんを見ると、

「冷めたもんは、温め直せばええよ!」

ほら、と手を取られる。
強く手を握ってくる志摩の手は冷たくて。
きっと、身体も冷え切っている。
「おでんはそうかもしれない。だけど、志摩くんが風邪を引いたら困るでしょう?」
「なに? 心配してくれとるん?」
「君が風邪を引いたら、僕が家事を全部やらきゃいけないじゃない」
「ひどおっ」
さして本気にとった風ではない志摩と、笑い合いながら扉を開いた。

温め直した今年初のおでんは、格別の味だった。
 

拍手

PR

コメント


コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


忍者ブログ [PR]
プロフィール
HN:
kao
性別:
非公開
職業:
秘書ときどき旅人
自己紹介:
PH・青祓・幽白・炎ミラ・その他ジャンルいろいろ。
長年燻っている想いからその時々の、萌えの欠片を集めました。
更新は自由気まま。リンクは同人サイトに限りフリーです。貼るも剥がすもご自由に★
カウンター
バーコード
携帯向