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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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つきあっている志摩雪。
志摩はけっこう包容力がある。
…といいな、という希望。
蛇足の京都組もこちらに収納しました。



  そばに居させて



よく出来たラブソングが夕方のコンビニに響く。
ふと歌詞を追いかけるが、恋人とはいえ少し事情ありの自分たち二人の逢瀬にはこんな流行りの歌など似合わないな、と、志摩はまた意識を手元に戻した。
視線の先にあるだけで大して内容なんて気にしていなかった雑誌から、ふいに気になって顔を上げて見た時計の針はここに来てからもうすぐ一巡しようとしていた。
落ち合う時間はいつも定かではない。
いや、自分が好きで待っているだけで、実際には待ち合わせどころか約束など何一つしていないのだから、会えるのかどうかも定かではないのだが。
寮の夕飯の時間があるから、タイムリミットはあと少し。
くるくると変わるがわる流れていたヒットチャートが、チャンネルを変えられたのか冬を題材にしたものになる。
まだ11月だというのに流れ出したクリスマスソングに、ちょお早すぎやないのと心で突っ込みを入れていると、いらっしゃいませー、と元気な店員の声が響いた。
見慣れた正十字学園の制服。ぴしっと伸びた背筋が真っ直ぐに飲料のケースに向かった。
迷いなくいつものミネラルウォーターを手に取った彼―――奥村雪男は、それ以外には目もくれずにボトルを店員の前へ置く。
会計を済ませた雪男はそのまま出口へと向かいこちらを見ることもなかったが、志摩はそれに続いて店を出る。
ぶわり、真っ正面から受けた空気は冷たく、来たときにまだ低くなかった気温にパーカーの上に制服という軽装で来たことを悔やんだ。
同じく制服のジャケットだけの雪男は寒くないのか平気そうな貌をしていたが、その頬は抜けるように白くて、ああやっぱりマフラーくらい持ってくるんだったと後悔する。
そんなことを考えていたせいで歩みの遅れた志摩を、ちらりと雪男が振り返った。
「堪忍、待ってーな」
広い敷地面積を誇る正十字学園とはいえ、コンビニから寮まではさほどの時間は掛からない。
授業が終わったらダラダラこのコンビニで時間を潰しながら彼の教員としての仕事が終わるのを待って、ほんの僅かお互いに残された時間を共に過ごすようになってどれくらい経っただろうか。
まだ短い付き合いとはいえ休日すらまともにない雪男とは、夏の終わりに付き合い出してからこっち恋人らしい時間など持てた試しがなかった。
苦肉の策として志摩の見いだしたこの逢瀬すら下手すればほんの十数分で終わってしまうから、一秒たりとも無駄には出来ない。
会話といえば他愛のない日々のこと。
触れ合いは、荷物の多い雪男からミネラルウォーターの入ったビニール袋を取り上げた時に触れた指先だけ。
それでも、志摩にはこの時間が愛おしかった。
学業に教職に任務にと忙しい雪男を独り占め出来る、ささやかだけれども幸せな時間。
きっと自分たちの路は交わらないと諦めていた頃と比べれば雲泥の差だ。
健全な男子高校生としては、もう一歩進みたいんやけどな。
そう思ってチラと少しだけ上にある碧を見る。
いつも白い顔が更に色を落としているのは外気のせいばかりではないだろう。
ああ、疲れてるんやなと思って見た彼の後ろに広がる宙は果てなく壮大で、まるでそれが彼の運命のようで泣きたくなった。
こうして志摩と居ることを選んでくれた雪男だが、やっぱり自分たちは違いすぎて、たまにその存在を遠く感じてしまう。
だけど、
「な、ちょお公園寄ってこ」
「時間は、大丈夫なんですか?」
寮の夕食の時間を知っている雪男が遠慮がちに聞いてくる。
食堂の開いている時間はあと30分程で今から帰ってもギリギリだが、志摩はそんなことよりも今のこの不安を払拭したかった。
「そんなんええよ」
もっとせんせと居りたい。素直に口に出せば、真っ白だった頬に僅か赤みがさした。
―――うん、大丈夫や。
自分から歩み寄るばかりの関係は、けれど想われていないわけではない。
今は誰も居ない小さな公園に二人足を踏み入れる。狭いながらも遊具の充実した公園は日中は子供で賑わっているのだろう、砂場の山と置き去りにされた片方だけの小さな手袋が昼間の名残を見せていた。
定位置になっている道路からは見えない奥のベンチへと、志摩は雪男の手を引いた。
優に大人三人は座れるサイズのそれに寄り添うように座ってきた雪男に、親密な距離に志摩は笑みを漏らした。
甘え下手な恋人はきっと無意識で、けれど無意識だからこそ、はにかむような笑顔だとか、二人きりになった途端にほっと息を吐く姿が愛しくてたまらない。
今日の出来事を語る唇も、それと共に上下する口元の黒子も、優しい眼差しも、ぜんぶ、ぜんぶ自分一人の物ならいいのに。
願っても叶うはずもないのに、志摩は願わずにはいられない。
それでも。
握ったままの右手に力を込めれば握り返される指からじわりと広がる熱。
この熱は確かに今、志摩一人の物だ。
「せんせ、」
「はい?」
「せんせが好きや」
会話の流れが掴めなかったのだろう。きょとりと一瞬呆けた後に真っ赤に染まる顔。
「…っいきなり、なに」
「うん、急に言いたくなってん。好きやから、俺はせんせがほんに好きやから、」

「意外と喧嘩っぱやいとこも」
(冷静を装っとってもほんまは情に篤いとこも)
「仕事以外の私生活ズボラなとこも」
(仕事ん力抜かんから、いつも疲れてるとこも)
「意地っ張りなとこも」
(他人を大事にしすぎて自分を大事にでけへんとこも)

「…いいとこないじゃないですか」
「はは、表面じゃないとこも見とるゆうことで」

僅か十五の自分と同じ年齢の子供が、どれだけ虚勢を張って生きてきたか。
今もどれだけの努力をしているのか。
周囲は彼を天才と呼ぶけれど。確かに天性のものはあったかもしれないが、全ては彼の努力の末の姿だ。
そうして得た地位は全て兄のためであり、周囲からの評価も彼を守るための壁で。
だけど、自分は。誰かが望む姿でなくても、優等生じゃない雪男も、

「ぜんぶ好きや」

愛なんてそれだけでは何の力もなくて、大した武器にはならないけれど。
それでも、
今、隣で、自分の前では年相応の顔を見せる彼が、少しでも安らげるように。
支えるなんて大層なことは出来ないかもしれないけれど、寄り添って歩けるように。

想いのぜんぶで抱きしめてるから…―――。










「…僕も、志摩くんが好きだよ」
ことり、肩に乗った重みが落とした囁き。
寄り添う熱に、傍に居させて欲しいと切に願った。





*****





「なんや、遅かったな」
「志摩さん、夕飯外で食べはったん?」
結局夕食の時間どころか門限ギリギリになって戻った寮の部屋では、勝呂と子猫丸が参考書を挟んで睨み合っていた。
それは『普通の勉強』の本ではなくて。
ああそういえば。京都から揃って出てきたのは尊い目標のためであるのだと、思い出すと少し後ろめたい気持ちが湧き上がった。
今の自分は、坊について上京することを決めたあの日から『祓魔師になる』という目標は変わらなくても、その目的は大きく変わってしまった。
ぜんぶ、何もかも。あの人の傍に居るために。
少しでも役に立てるように、と。
ならば、目的を共有しているはずだったこの二人には、いつか説明するのが道理かもしれない。
しかしそれは今ではなくともいいだろうと結論付け、志摩はいつもの笑みを貼り付けた。
「やあ、食いっぱぐれてもうて」
コンビニ行こうにももう門限過ぎましたやろ、と後ろ頭を掻けば、子猫丸がごそごそと引き出しを漁りだした。
「ほな、カップ麺でも食べます?」
「え! ええの?」
「ええですよ。160円で」
「…金取りますのん」
「当たり前でっしゃろ」
「子猫さーん」
「湯、沸いとるで」
言い合いをしていれば、呆れたように勝呂がポットを指さす。
「もう遅いんやから、さっさと食えや」
「おん」
ポットから熱々のお湯を注ぎながら、普段はあまり使われないそれに並々と給水されていたことにまた少し申し訳なさが込み上げた。
これは、帰りが遅い自分のために子猫丸あたりが準備してくれていたに違いない。
回数は多くないが、何度か夕飯を食いっぱぐれている志摩が寮に戻って買い置きのカップ麺やレトルト食品を食べるのはこれが初めてではなかった。
最近帰りの遅くなりがちな志摩にも何も聞かないでいてくれる二人に感謝し、今はほこほこと湯気を立てるカップ麺に集中することにした。
ズルズルと麺を啜りながら、未だ参考書と睨み合う二人を眺める。
全員が詠唱騎士を目指しているから、こうして全員一緒に勉強をするのも日常で。
けれど最近は、志摩は詠唱騎士よりも何かもっと彼のためになれる称号を取るべきではと思っている。
勝呂や子猫丸とは幼い頃から何をするのも一緒だったけれど…

「お前ええ顔付きなったな」

「はえ?」
ぽつりと落とされた勝呂の言葉に、突如思考が遮られ妙な声が漏れた。
「なんや、目標が出来たんやろ?」
「…バレバレですか」
「バレバレや」
教本に視線を落としたままの勝呂と、ちらと志摩を見る子猫丸。
どちらも長い付き合いだけあって、隠し事など無謀だったようだ。
どんな覚悟決めたか知らんけどな、そう言う声は穏やかで。
「なんも後ろめた思うことない。明陀のためなんか思わんでええんやで」
「坊…」
相変わらず勝呂の視線は教本に向かったままだったが。
そうですえ、と言う子猫丸のいつも通りの笑みに。
じわと心に広がった熱。

「坊、子猫さん。ありがとお」
 

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