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長年燻っている想いからその時々の萌えまで。
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燐と志摩による雪男争奪戦。
兄さんが絡む志摩雪が大好きみたいです、わたし…。
こんな話でも原作主軸と言い張っていいですか。メフィスト便利☆




  「兄が好きな雪男」と『志摩が好きな雪男』の話



「では、本日の授業はここまで。皆さん、ちゃんと復習と、予習もしておいてくださいね」
チャイムも鳴らないのに正確に終了時刻を告げた声に、ガタッ、ガタンと派手に椅子から立ち上がる音が響く。
競い合うようにダッシュで教壇に向かった燐と志摩の二人は、左右反対側から雪男の腕を掴んでほぼ同時に叫んだ。

「雪男、さっさと帰るぞ!」
「せんせ、はよ行きましょ!」

あー…と緩い声を上げた雪男が、腕を掴まれ揺さぶられながらも器用に教材をトランクに納めていく。
「兄さん、引っ張らないで。志摩くんも、まだ片付けが終わってないから…」
「なあ! 先生は今日、帰りどっか行こて俺と約束しとったよな! な?! ほら、これが証拠のメールや!」
ひかえおろおぉおう!と某番組の印籠の如く燐に向かって携帯画面を見せる志摩。
しかし、ええちゃんと覚えてますよ、と穏やかに応える声を遮って、本日も無情な兄の声が響く。
「今日は駄目だ。早く帰って昨日作りすぎた煮物食わねぇと腐る。ジャガイモは冷凍できねぇからな」
「なんやの! その理由!」
「…そういうことなら帰らなきゃね。ごめんなさい、志摩くん。出かけるのはまた今度」
「ええぇええ! 先生まで何言うてはるの?!」
「食べ物を腐らすなんて言語道断じゃないですか」
「そらそうやけど…。ってそもそも! 毎日ゴハン作っとるくせに作りすぎて何やの? ただの嫌がらせやんか…!」
「はっはっはっ、ソンナコトナイヨ志摩クン」
「わざとらしっ! しかも昨日はお一人様一つ限りの特売品買わなとかそんな理由で先生連れて帰るし」
「うん、でも特売品は外せないよね?」
「な?」
「うぅぅ」
奥村家ルールという名の燐の言い訳に阻まれて、志摩は唸り声を上げる。
ね?と首を傾げて兄にアイコンタクトする様が可愛…いや、今問題なのはそんなことではなくて。
「そうそう、明日は魚の特売だぞー」
「え、兄さん秋刀魚が安いかちゃんとチェックしてくれてる?」
「せんせえぇえええ!」
好物の魚に食いつく雪男についに志摩が叫んだ。
「なあ、また今度なん無理や! どんだけ二人で出かけてない思てるん?!」
「…半月くらい、ですかね」
「そや! 今日できっかり15日目! 付きおうて間もない恋人がこないなことでええ思とるの?!」
さらりと答える雪男と金きり声を上げる志摩を見ながら、塾生たちは一様に半月前を思い出していた。
半月前のあの日、あの時までは平和だったのに、と。
そう、事の始まりは半月前。
最近なんだか仲がいいなと思っていた志摩と雪男が付き合っているという衝撃の事実が明らかになった。
当初それを知った塾生たちは驚きはしたものの、特に否定はしなかった。
どう見ても押しているのも舞い上がっているのも志摩で、そして雪男ならば本当に嫌ならどうとでもなるのだからというのが全員一致の結論だった。
恋愛など当人同士の問題であって自分たちに反対する理由などない。
人の恋路を邪魔するやつはナンとやら。
放置するに限る。
だがただ一人。
唯一の肉親である弟が可愛くて可愛くて仕方のない兄だけが、二人の仲を認めようとはしなかった。
それからこっち、なんだかんだと雪男を独占している燐に、授業以外の接点を絶たれた志摩は限界だった。
ぎゃいぎゃいと子供みたいな言い合いを続ける燐と志摩だったが、奥村家ルールの前では勝ち目がない。
こうなったら、と矛先は雪男に向かうが。
「せんせは俺の恋人やろ?!」
「まあ一応?」
「一応て! しかも何その疑問系…!」
雪男のドライな返答と、視線の先で勝ち誇った笑みを浮かべる燐を見て、志摩がめそめそと顔を覆った。
しくしくと泣き落としに入った志摩がちらりと指の隙間から伺うが、当の雪男は見向きもせずにトランクの鍵を閉めていた。
ちっ
聞こえた舌打ちに、全員が温い眼差しを送る。
泣き真似なんて姑息な奴やな、と呟く勝呂をじとりと睨み付け、志摩は果敢に雪男に挑む。
「なー、なら夕飯までの間!」
「今日は職員会議があるって言ったでしょう?」
「うー、そこを何とか! 30分だけ! あ、駄目? じゃあ15分、いや10分でもええ!」
まるで市場の売り込み販売のごとく迫る志摩に、燐が応戦しようとしたその時。

「奥村先生、職員会議が始まりますよ」

ひょこりと現れたメフィストに、周囲が、ああこれでようやく今日の茶番が終わるとほっと息吐いた。
それは雪男も同じだったようで、呼び出しにどこかほっとした表情を見せて慌てて鞄を持つ。
「フェレス卿、今、行きます」
「ええっ!」
しかし話を切られた志摩はたまったものではなかった。
ここで話を終わらせてなるものかと、雪男に縋りつく。
「せんせ、今日が駄目ならせめて明日の約束をおぉおおおおお!」
「ぐっ、志摩くん、重い…」
雪男の腰にしがみついて離れない志摩をずるずると引き摺ったまま雪男はドアへ向かうが、さすがに同い年の体格もそう変わらない人間をぶら下げては上手く前へ進めない。
「おや何のコントですか。私、お笑いは好きですよ☆」
「いや、フェレス卿、コントではなくてですね。志摩く…ほんとに、重い!」
いやや絶対に離れへん~今日こそせんせとデートするんや~と執念で張り付く志摩に、メフィストがわざとらしく溜め息を吐いた。
「やれやれ、仕方ないですねえ」
にやり。
マントの影で口角が持ち上げられる。

「アインス、ツヴァイ、ドライ♪」

ぼふんっ

パチンとメフィストが指を鳴らした先で、白煙が雪男を包んだ。
「雪男?!」
「せんせ!」
駆け寄ろうとする二人を制して、メフィストが口の前に人差し指を立てる。
「だぁいじょうぶ、悪いようにはしませんから!」
「『ごほっ、けほ…っ』」
煙の向こうで雪男の声がして、確かに無事なことに一同ほっと胸を撫で下ろした。
しかし煙の散ったその先には。

「『な、なにこれ!』」

ドルビーサウンドよろしく左右から聞こえた声に、全員が硬直した。
そう、雪男が一人、雪男が二人。
雪男が二人?

「「「「先生(雪ちゃん)が増えたー!!!!!」」」」

そう。本来であれば一人しか居ない雪男が、二人に増えていた。
驚愕して声も出ない当人たち以外が絶叫する。
「職員会議に生徒をぶら下げていくわけにはいきませんからね」
どうぞ志摩くんはこちらの奥村先生を、と言うとメフィストはそれなりに体格のいいはずの雪男をひょいとかるーく志摩に投げた。
「こちらの目元のみ黒子の奥村先生が奥村くんの、口元のみ黒子の奥村先生が志摩君のです」
「…フェレス卿、なに人を誰かの所有物みたいに言っているんですか」
投げられなかった方、分裂(?)する前と比べて確かに一つ少なく目元二つの黒子しか無い雪男が、額に青筋を浮かべて微笑む。
そのまるで虚無界の門でも背負っているようなおどろおどろしい気配に誰もが冷や汗を滲ませたが。
「りじちょおぉおおおお! なんってええお人なんやあぁ!!」
志摩だけが、半泣きになりながら久しぶり(といってもたかだか半月だろ、と周囲は呆れていた)に触れる雪男に頬擦りしていた。
『志摩くん、や、やめて…』
やめてと言いつつ、嫌がっているというよりも恥ずかしがっている風の雪男が瞳を伏せれば、
「あー久しぶりの先生の温度や! せんせ好き! ほんまに大好き!」
とさらに目を輝かせる始末だ。
ぎゅうぎゅう抱きしめられていることにか、好きと言われたことにか、志摩に抱えられている方の雪男の顔が朱に染まった。
「お、お前っ、志摩! 雪男に何するんだ!」
「ちょっとそこの僕! 抵抗しなよ!」
燐と、志摩に抱えられている雪男とは別の理由で顔を赤く染めたもう一人の雪男が二人に近づく。
けれど、
「おわっ」
「えっ」
メフィストが首根っこを掴むように二人の動きを阻んだ。
「さ、こちらの奥村先生は職員会議に。奥村くんもここに置いておいたらややこしそうなので行きますよ!」
さてこれで万事解決♪と、195cmの巨体が軽々と左右に下ろせやめろとわあわあ騒ぐ奥村兄弟を引き摺って去っていく。
「理事長! ありがとお!」
「礼には及びません☆」
バチンとウインクした彼の背中が見えなくなるまで手を振って見送った志摩は、もぞりと動いた温もりに視線を下ろした。
離すまいと力を込めすぎた志摩の腕の中。
『あの、志摩くん。そろそろ離して…///』
耳までを赤く染めて、雪男が志摩とギャラリーから顔を隠すように俯いた。
…みんなの前で、恥ずかしい。

「「「「「っ!!!///」」」」」

ぼそりと落とされた小さな声に、ちらと見えた潤んだ瞳に、志摩を始め全員が硬直した。
二人の付き合いを知った当初。さすがに雪男に問いただすことなどできない面々が志摩にいったい何がどうしてこうなった、と聞いたことがあった。
「せんせはな、かわええんよ。なんやこう、守ってあげたなる言うかな。でもって恥ずかしがり屋さんやから、くどき落とすのもお大変で大変で…」などとのたまったときは、あの完璧超人相手に何を、と思ったが、これはなかなか加護欲をそそる。
志摩が硬直して動けず、つまり抱きしめたまま離せずに居れば、雪男がますます身体を縮めた。
それにはっとした志摩が、腕の力を緩める。
「あ、ああ。堪忍」
今度は志摩が真っ赤になって、いや、むしろ立ち上がった二人は揃って真っ赤になっていて。
やっと離れた腕にほっとひとつ息を吐いて、雪男がそろそろと視線を泳がせて問う。
『あの、志摩くん。教材を薬品庫に片付けるの手伝ってもらえるかな』
「! もちろん!」
快諾されたことにぱっと花が咲くように雪男が微笑んだ。
口元に一つのこった黒子が広がる笑みとともに少しだけ持ち上がる。
目立つ特徴的な頬の黒子がなくなって、整った顔立ちが一層際立った。
その上、いつもの笑顔は何だったのかと思わせるほどの心底からの笑みに、全員がきゅうと心臓を鷲掴まれる。
「せんせ、はよ行こ♪」
『では皆さん、また明日』
「「「「…………」」」」
ぺこりといつも通りに挨拶をして去る雪男に誰一人言葉を返せないまま見送れば、あ、せんせ荷物持ちますえ!え、いいです…。いやいや。と押し問答をした末に結局志摩が雪男から荷物を奪った。二人の背中が扉の先に消える。
ばたんと扉が閉まる音を合図に何となく円陣を組んだ塾生たちは、しばらく無言であった。
長らくの沈黙ののち。
一番短期な出雲が口火を切った。
「…これからどうなるのかしら?」
「さあ。でも、居らんくなったならまだしも、増えたんやからええんちゃうか?」
「明日からの授業にも支障はないですしね」
「そうだね! 雪ちゃんが二人居たら二倍楽しいよ!」
「「「…………w」」」



続w

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